第28回/Discord管理格闘記録

文字数 4,527文字

こちらはインターネットに生息するふしぎないきもの・にゃるらがインターネットと独り暮らしとそれ以外について深夜に執筆している画像付きエッセイです。→@nyalra


第1回はこちらから

 誰でも参加できるDiscordサーバーを運営していまして、ゆっくり見守っているうちに住人が一万人を超えました。ありがとうございます。まあ、どんなに住人が増えようが僕に一銭も入るわけではありませんが。


 設立の理由としては、単純にTwitter外のフィールドに興味があったこと、Twitterでは特定のフォローした人間や周囲の発言で固まってしまうため、もっとたくさんの人間の投稿を読んで広く見識の幅を持ちたいことなどが理由です。ざっくり言えばいつまでも同じSNSだけに居ると息が詰まるので新しい場所を知ろう! って感じですかね。


 ということで、ゆったりアニメや漫画、あとはネットのことなどを書き込む場所を作ってみて、どうしても荒れそうな話題……ゴシップや政治関連だけは極力控えるくらいのルールで運営してみたところ、意外とそれくらいのゆるい空間に需要があったらしく、気づいたら1万人といった形に。


 個人的には、それ以上に他意はないつもりでしたが、面白いものでこれだけでも人が増えると絶対に文句をつける外野がでるもので、「政治を避けること自体が政治性を生んでいつしか陰謀論の温床になるのだ」とか「政治の話から目を背けるオタクだらけだから国が腐敗するんだ」と批判する人間もごく一部だけ居ました。「このサーバーでは現実の話よりサブカルチャー中心にしようってことがそんなに悪か!?」と驚いたものの、やはり政治が絡むと人は怖いなって確認できたので、やはり自分のサーバーでは避けてよかった。もちろん、ちゃんと国の今後について考える場もあるべきですが、別にその責任を僕が負う必要ないし……。


 サーバーはとても穏やかでした。内々で固まらないように通話チャンネルを廃止し、基本はツイートのような独り言が流れ、たまに誰かが独り言に反応して会話が軽く発生するような、まるで初期のTwitterを想起させる空気感に、我ながら良い場所と感じた。管理者が目立つとキショいので自分自身は最低限の事務報告以外はほとんど利用しない。せっかく他SNSと違って数字や人間関係を気にせず居られるのだから、僕のことすら忘れて、なんなら知らなくたっていいくらいで利用してもらいたい。実際、そのように進行しておりました。


 実際、Twitterがなんらかの活動をしている人間に有利すぎる場になってきて、なかなか気軽に呟いて同年代で共通の趣味を持つ仲間を見つけて手頃につながる体験が減っているのではと考え、ならもっと他人の目を気にしなくて済むし、ネットニュースに触れたり過激な発言で目を引く必要もないDiscordは一部の若者にとってちょうど良かったのかもしれません。SNS開くと、高確率で大人の喧嘩が目に入りますからね。それがないだけで居心地がちがうのかもしれない。僕らはすっかり、大人が言い争いする姿に慣れてしまった。良くも悪くも。いや、かなり悪寄りか……。


 が、徐々に問題が目立ってきた。ある雑談用のチャンネルが十数人だけで固まり、まるでその人たちだけの居場所となったのだ。もちろんそれだけなら、まぁこのチャンネルはそういう特性ってことでいいかなと楽観視していたのですが、人は一箇所に集まって慣れると当然身内化が起こり始め、だんだんその十数人以外はほぼついていけないコミュニティとなったのです。


 で、身内で固まるのだからだんだんノリも独特になり始め、具体的には下ネタや弄り・煽りなどが横行するように。若者が複数で集まるのだから、当然このノリになるでしょう。これくらいのコミュニケーションを経て、人はだんだん成長していく。しかし、あまりにここはあくまで他人のサーバー。身内弄りが激しくなるに連れ、ぱっと見ると治安が悪くなっているようにしか思えない。どこまで「ネタ」で罵り合っているのかわからないし、単純に下品な単語で埋め尽くされる低俗な流れもできる。他のチャンネルが比較的平和である以上、ここだけ特別視するわけにもいかない。


 というわけで過激な発言はさすがに管理しようとメスを入れようとするも、みんな罵倒や放送禁止な下ネタくらいは平然と使うものだから、厳格に罰すると全員BANすることとなる。それはさすがに忍びないので、「下ネタや身内ネタは少し控えてね」と柄にもなく警告してしまった。できればこんなこと言いたくない。


 しかし、若者の集団への注意なんて火に油。僕が警告を促すたび、「にゃるらはオレたちのこと嫌いなんだ!」「にゃるらが下ネタやーやーなのって言ってて笑う」と敵視されたり煽られたりするようになってしまった。教師に逆らう不良生徒さながら、もはや理屈と関係なく「オレたちが楽しく話しているところに何故か水を差すヤツ」と認識された僕は「煽りの対象」となることに。


 「にゃるらって下ネタ控えろって言ってるくせに自分はこんなツイートしているぜ!」「にゃるらって治安がどうってうるさくてネットをわかってないよな!」と一部の住人はますます反骨精神を増していく。わかる。長い物に巻かれるのも、正しく注意してくる人間の発言にただ従うのもカッコ悪いよな。そのパンクな生き様は大切だぜ。……が、それはもっと別のオープンな場所で発揮するべきで、こんな狭い世界で暴れられても単純に困る。かっこ悪く言えば内弁慶でしかない。


 それでも「過激な下ネタや身内ネタはBANの対象となります」と再三言うしかないので、他住人から通報があって目に余る方をBANした際には警告を繰り返していましたが、ついに「にゃるらはなんで何も悪くオレたち/わたしたちを攻撃するんだ?」と疑心暗鬼に。いやサーバーの管理者が無意味に住人に嫌がらせしているわけないだろ! と説明するも、やはり遊び場に乱入する大人へ抵抗するようなメッセージが続く。


 仕方ないので「サーバーの運営方針にご理解いただけない場合、別のサーバーへ移動してはどうでしょうか?」と促すと、「自由に発言できるのがこのサーバーのいいところだったのに! もうこんなところ出ていこう!」と宣言されてしまった。だから最初から治安が悪くなると困るから移動してくれって言ってるんじゃん! と思ったが黙っていた。その方はこの発言を最後に即脱退したので、彼女の中で僕はついぞ「なぜかうるさいこと言って会話を邪魔する悪者」な認識のままであろう。


 不思議なことに、実際に抜けたのはその方くらいなもので、だいたいの住民はそれでも僕のサーバーの特定チャンネルに居座って会話をつづけ、日々「にゃるらが邪魔するの本当にムカつくよな」といった悪態をついた。さすがに、この頃からは数名「でも管理者が言っていることももっともじゃない?」と善の心が芽生えた人も出てきてくれる。しかし、教室だろうがネットだろうが悪目立ちする者のほうが強い。善良な生徒の声は「でもオレたちにとってこれがフツーだからよくね?」といった不良ノリに掻き消されていく。


 ここまで含めて「ネットの流れだな〜」と勉強になってきました。気づけば匿名掲示板にスラムのような混沌具合が人気の板が発生し、悪化する治安の中で独自の文化が生まれていくのも体験として理解できる。が、決定的に違う点はここは流動性がないので身内が固まるのみであること。たとえスラムであっても、いやスラムのような無法地帯だからこそ生まれるなにかは尊重するべきで、それこそ初期のニコニコやTwitterのカオスでしか誕生しなかったモノはたくさんある。なんなら僕のアカウントもそうでしょう。けれども、十数人のグループチャットでは無理だ。


 彼ら彼女らが無邪気にコミュニケーションする場があってもいい。ただ、まともにサーバーを利用している人間が9割である以上、管理者としてはどうにかするしかない。試しに、数分に一度しか発言できない「低速モード」を導入して流速を遅くすることで人がいい塩梅に減るかもと実行したところ、あまりにトロい流れに我慢できない住民が他チャンネルで会話を始めるようになってしまった。今まで一箇所のチャンネルに集中していたからこそギリギリどうにか保たれていた治安がこれでは一気に崩壊してしまう。


 さすがに限界だなと、低速モードは解除したうえで、はっきり「節度を持って利用してください」とルールを付け加えた。できれば住民たちには自分たちで落とし所を見つけてもらいたかったが、他チャンネルに被害がでるのはよくない。せめて「節度」とはなにかを見つけてもらえたら運営した意義がある。この重々しい単語のおかげでBANにも大義名分ができるし、嫌がらせじゃなくて本気で困っていると気づくはずだ……。


 するとどうでしょう。これが意外とカチッとハマった。


 住民たちが「たしかに他人が管理しているサーバーを身内のノリで治安を悪くするのはよくないよな。下ネタも初めて来る人から見れば荒れてるだけに見えるよな」と理解してくれたのです。というか、そもそもR18なコンテンツ用のチャンネルも用意しているのだから、下ネタ自体を嫌っているわけじゃないくらいもっと早く気づいて欲しかった。


 ここで愚痴っても無意味だ。ここまで数ヶ月かかりましたが、なんと今はそのチャンネルも比較的抑えめなコミュニケーションが続き、そのおかげか特定の十数人だけでなく新規の参加者も少しずつ増えてきた。こうして一万人の中の十数人、一割すら満たない住民たちと小うるさい管理者の関係は和解した。紆余曲折あったものの、これは互いにとって良い結果になったんじゃないでしょうか。


 こうなってくると面白いもので、「にゃるらさんお金もらっているわけじゃないのに管理してくれて(オレたちと話してくれて)ありがとう」と、ようやくまともに感謝してもらえたのです。良かった。絵に描いたような不良の更生だ。「センコーが言ってたことってオレたちのタメだったんだな」ってフェーズへ。本当にどうでもよければ放置か爆破で問題なかった。それでも、どうにかこのかたちにたどり着きたくて頑張ったのだ。結局、ネットも……いや顔の見えないインターネットだからこそ「対話」が重要であることを知って欲しかった。僕はダブルオー大好きだからね。


 こうして書くと、綺麗事並べまくりで正しく「先生」だ。それはそれで嫌だなーと思いつつも、誰かがこういう役を引き受けないと回らないものってあるよねと学びもあり、やっぱりDiscordサーバーを見切り発車でも作ってみて良かったなと感じた今日のこのごろなのでした。

【当時のアニメ雑誌によるウテナの切り抜き】


国会図書館で、アニメージュやニュータイプに掲載された『少女革命ウテナ』のページを印刷してまとめたもの。幾原邦彦のピンナップ的なページがいいね。こんなアニメ監督だらけだったら、もっとアニメ業界は愉快であったでしょう。

来週も月曜深夜に更新予定です。それでは、おやすみなさい。

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