第50回/社会性を埋めてもらうための代金

文字数 2,249文字

こちらはインターネットに生息するふしぎないきもの・にゃるらがインターネットと独り暮らしとそれ以外について深夜に執筆している画像付きエッセイです。→@nyalra


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 その昔、「ゴミの分別なんて非常に社会性の高い行為だよ」と教えられたことが妙に記憶に残っている。


 一人暮らしも、もうだいぶ長くなりましたが、まったくもってその通りだと感じる。どんなゴミが燃えたり燃えなかったりするのか、容器や瓶を何曜日にだすのか。この大きさは粗大ゴミ扱いなのか分解して燃やす扱いなのか。それらを判断するだけでも複雑なのに、地域によってルールがちがう。トランプゲームのようにローカルルールまみれで、それを確認するだけでも消耗する。


 特に粗大ゴミはわけわからん。


 要らなくなった家電や家具を捨てるためには、なんか電話したりサイトを開いたりして、いろんな手続きを行う。そのうえで数週間先のことになるのもざらで、その間にゴミ処理券なるものを購入しておく必要すらある。初めて粗大ゴミを出したときなんて、右も左もわからず、遊戯王カードの効果処理より悩んだものです。


 というか、最初は粗大ゴミの処理を諦めていた。掃除機が壊れたり、本棚を買い替えたりした際、どう捨てていいのか見当もつかなかったため、すべてベランダに放置していた。生ゴミを放置していると近所迷惑になるが、家電や家具ならいいでしょう。気づくとベランダは壊れた家電や元は家具のパーツであっただろう謎の鉄の棒などで埋まった。ベランダに出ること滅多にないので気にしなかったし、その時は睡眠薬の過剰摂取で脳みそが曖昧なときが多かったため、下手にベランダへ出ると躁なり鬱なりのきっかけで飛び降りてしまいそうで怖かったのです。なので閉鎖されてちょうどよかった。


 しかしまあ問題を先送りしたとて、いずれ向き合わねばならない時は必ず来る。


 具体的には「退去」がある。つまりは引っ越しだ。当然ながら家から家へ移動する際に、不要な家具が自動的に片付けられることはないので、住んでいる間は曖昧に放置していたあらゆる問題が浮き彫りになる。僕の場合はベランダだった。


 その時に初めて粗大ゴミの出し方を調べたわけですが、元よりなにがなんやら意味不明なうえに、粗大ゴミの種類も量も多すぎて、とても一人では対応できない。それに、この量をすべて玄関前に置いて去るわけにもいかないし、どうやら粗大ゴミは回収されるまで半月以上かかるらしい。そんな長い間、玄関前を大量の残骸で塞いでたらみんな激怒するよ!


 その事実に気づいたのは引っ越し前日であった。人間、何事もギリギリまで動き出せないものだ。「まあなんとかなるものだろう」と楽観的に考えてしまう。まあどうにもならなかった。


 仕方がないので、「ゴミ回収業者」とやらに頼むこととしました。トラック一台分のゴミで1万円ほどらしい。がんばって個人で捨ててもゴミ処理券の代金で5000円はかかる。なら人件費考えると損ではないだろう……と油断してしまった。


 油断、といつつ内心そうなる気はしていたのですが、やはり業者はあれこれ理由をつけて費用を上乗せしてくる。解体代、運送費、トラック一台分じゃ済まないので数台分、など。誓って書きますが、いくら量が多いといっても所詮はワンルームの狭いベランダ程度のものである。どう考えてもトラック一台で足りるはずだが、サイトに記載されたトラックは「小サイズ」での代金らしい。そして弾き出された見積もり料は……10万! 想像よりも桁がちがう!


 目玉が飛び出るかと思いましたが、引っ越しは翌日。ここで他の業者と比較して値段を渋る余裕もないし、他の業者もサイト上は安値をうたっていてもだいたい似たような理由で費用がかさ増しされていくだろう。向こうもこちらが引き返せないことを見越している。やむを得ないので泣く泣く10万円が飛んでいく。引っ越し代金ですら相当な痛手なのに、そこからさらに10万が消えた。自業自得とはいえ、お先真っ暗だぜ。


 時間を書けて家電や家具を整理し、その場その場で粗大ゴミを登録して何ヶ月も前から適切に処理していけば5000円で済んだのだ。それが10万円。20倍だ。「ゴミの分別」なる社会性を怠った、他人に委ねた結果が9万5千円の損失である。以降、さすがに家電も家具も要らなくなったその日に捨てるようにした。一度慣れたら思ったより楽で逆にキレそうになるほど。


 9万5千円。これが社会性の代金である。


 高いと思うか安いと思うかはアナタ次第である。きっと、他にもいろんなタイミングで社会性をお金で解決する場面がくる。みんなも社会について考えてみよう。

【Red and Blue Chair】


知る人ぞ知る名作チェア。僕が大好きな画家モンドリアンから影響を受けたオランダの建築家リートフェルトによる作品。シンプルな造形や色使いが凝縮された美を感じさせる……が、これはミニチュア。

ちなみに実物を再現した椅子も80万円ほどで購入できるらしい。座り心地は悪いらしい。そりゃ古いモノですからね。量産し易いシンプルな美しさが魅力なんだし。

一瞬、それでも家に飾りたくてたまりませんでしたが、よくよく考えるとシンプルゆえに自作できるのだから、我慢できなくなったらホームセンターへ赴き自分で創ろうと思います。それをリートフェルトも望んでいるはずだ。

来週も月曜深夜に更新予定です。なんだか、いつもと違う記事になるかも? おやすみなさい。

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