『文豪たちが書いた「犬」の名作短編集』より/夢野久作
文字数 1,904文字
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同業のパートナー、喜国雅彦さんとの共著『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』で第17回本格ミステリ大賞受賞をしている国樹さんが、「犬の出てくる面白い本」をネタバレなしで紹介してくださいます!
大好評連載の第52回目は、『文豪たちが書いた「犬」の名作短編集』より夢野久作さんの「犬と人形」「犬のいたずら」です!
タイトルにひかれて手に取る本ってありますよね。今回ご紹介する本がまさにそれ。『文豪たちが書いた「犬」の名作短編集』(彩図社)です。
目次を見てみます。そうそうたる面々がずらり。14人の文豪たち(夏目漱石、川端康成、林芙美子、太宰治、宮本百合子、夢野久作、佐藤春夫、久生十蘭、豊島与志雄、正岡子規、田山花袋、芥川龍之介、小山清、小川未明)が小説だったりエッセイだったりで、それぞれの「犬」にまつわる物語を読ませてくれます。
ただし時代背景もおおいに関係ありますから、犬に対するスタンスが現代のそれとは大きく異なります。正直なところ全てがおすすめとは言いがたく。
その理由は、こちらのブックガイドのテーマである「犬が死なない本を紹介します」を満たしていない作品がいくつかある上、いささかシビアすぎる関係性の犬と人間が多く出てくるため、悩ましいのでした。
とはいえバラエティに富んだ1冊なので、飽きることなく読み切れるのは間違いなし。以前にこちらで取り上げた太宰治の「畜犬談」や、小山清の「犬の生活」も収録されています。
さて14人の中で今回取り上げるのは誰にしようと逡巡し、夢野久作に決めました。日本探偵小説三大奇書として名高い『ドグラ・マグラ』を書いた、あの夢野久作です。
収録されているのは「犬と人形」「犬のいたずら」の2編。どちらも童話仕立てとなっており、難解の極みである『ドグラ・マグラ』とは全く違う大変読みやすい短編です。
「ところが夜中になると太郎さんはねむったまま大きな声を出して、
「ポチ、ポチ」
とよびました。すると花子さんもねむったままで、
「メリーさん、メリーさん」
と呼びました。」
「犬と人形」からの引用です。ポチは犬、メリーさんは人形の名前で、両方ともが子どもたち(太郎と花子)にとっては宝物。関東大震災の大火事で焼き出され、人間だけで逃げるのが精一杯。夢に見るほど、大切な家族だったポチとメリーさんを忘れられない2人なのですが………。
「去年の十二月の三十一日の真夜中の事でした。一匹の猪と一匹の犬がある都の寒い寒い風の吹く四辻でヒョッコリと出会いました。」
こちらは「犬のいたずら」の引用です。大晦日に猪と犬。不思議なシチュエーションですが、なんとなく想像がつきませんか。大晦日に彼らはどんな話をしたのでしょう。会話の中に「兵隊」という言葉が出てきますから、日本にとって激動の時代。超短編なれど、考えさせられる佳作となっています。
夢野久作といえば「瓶詰めの地獄」という名作短編もありますよね。あの話は切なさに満ちていましたが、同じような淡々とした文体で綴られているのに、これらは優しさに満ちています。別の味わいの夢野久作を是非どうぞ。
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漫画描き。近年はエッセイも手がけている。ミステリとメタルと空手と犬が大好き。代表作に『こたくんとおひるね』『しばちゃん。』『犬と一緒に乗る舟』など。講談社文庫では、共著の『メフィストの漫画』などがある。2021年、極真空手参段に昇段。メタルDJもこなす。2017年に『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』(喜国 雅彦と共著)で第17回本格ミステリ大賞受賞。
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