『迷犬マジック』/山本甲士
文字数 1,601文字

同業のパートナー、喜国雅彦さんとの共著『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』で第17回本格ミステリ大賞受賞をしている国樹さんが、「犬の出てくる面白い本」をネタバレなしで、素敵なイラストつきで紹介してくださいます。
第17回目の今回は、山本甲士さんの『迷犬マジック』です!
2022年最後にご紹介するのは、読んだ誰もが幸せになれることうけあいの物語。山本甲士さんの『迷犬マジック』(双葉文庫)です。
最初にこのタイトルを見たとき「迷犬? 名犬でなく?」と思いました。その理由はすぐにわかります。マジックは迷子の犬なのでした。
目次には「春」「夏」「秋」「冬」とだけ。連作短編の形式で書かれています。季節ごとの主人公は性別も年齢も境遇も全く違う人々。孤独な老齢男性、人気のない路上ミュージシャン、メタボな理髪店の店主、仕事に挫折したアラサー女子。彼らの共通点は「現状が幸せではない」ということ。
それぞれが大なり小なり人生へのあきらめを抱えており、それを打破する方法もわからないまま日々を過ごしています。
そんな彼らの元に舞い降りた救いの天使がマジック。黒柴と洋犬ミックスのような見た目の男の子で、年齢不明だけれど若くはなさそう。赤い首輪に「マジック」と書かれているので、名前だけはわかります。
迷い犬として現れるので、関わる人間たちは毎回「本当の飼い主さん探し」をします。つまりは先に人間がマジックを助けようと動くわけです。致し方なく、のパターンばかりとはいえ。
でも読み進めるうち、助けられているのは人間のほうだったのかと驚かされるのでした。
マジックは人間語をしゃべりませんし、一瞬で幸せになれる魔法をかけてくれるわけでもありません。ですが、ボタンのかけ違いを直すような小さい導きを沢山作ってくれる、奇跡の犬なのです。あくまでも、犬として出来る範囲で。
それにより人間たちは、自分の力では無理だと思っていた「人生の軌道修正」に成功していくのでした。不思議な犬の力ではなく自力というところ、最高に素敵すぎませんか。
別々に見える4本のお話は登場人物がリンクしているというにくい演出で、そちらも注目して欲しいポイントです。
更に注目して欲しいのが、人間だけでなくシェルターにいる犬たちをも幸せにしたいという作者さまの思いです。物語に無理なく保護犬エピソードを絡めてくださっているのが、保護犬と暮らす者の1人として大変嬉しく、感謝しかありませんでした。
迷い犬でなく、流れ者の世直し犬マジック。間違いなく名犬です。今何かに迷っているあなたの元に、マジックはふらりと現れるかもしれませんよ。

漫画描き。近年はエッセイも手がけている。ミステリとメタルと空手と犬が大好き。代表作に『こたくんとおひるね』『しばちゃん。』『犬と一緒に乗る舟』など。講談社文庫では、共著の『メフィストの漫画』などがある。2021年、極真空手参段に昇段。メタルDJもこなす。2017年に『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』(喜国 雅彦と共著)で第17回本格ミステリ大賞受賞。
公式ツイッター→https://twitter.com/kunikikuni
公式インスタグラム→https://www.instagram.com/kunikikuni/
黒白のMIX犬/10歳/甘えん坊なシャイボーイ
「ふゆのすかーふ、かっこいい?」
茶色のMIX犬/8歳/自由に生きるおてんば姫
「ふゆのおようふく、ぬくぬくなの」(でも後に噛んで破壊)