『無年金者ちとせの告白』評・東えりか

文字数 1,007文字

必死に働く老女たちが手を組んだ
(*小説宝石2022年8・9月合併号掲載)

『無年金者ちとせの告白』西尾 潤(光文社)

台は中央自動車道を高井戸インターチェンジから西へ一時間以上車を走らせた場所にある‟坂田PA”。ここを運営する(株)アイノフーズには定年がない。よって現在の従業員の平均年齢は六十二歳と働かなくてはならない高齢者にはありがたい会社だ。だが社長の息子の専務は会社を若返らせたい意志を持っている。


 先月、飲食部から清掃部に異動させられた梨元ちとせ(72)はリウマチに痛む膝を引きずりながら、主任の権田二郎太とともに駐車場の掃き掃除やトイレの清掃を行う。とくにトイレは辛い。終わると腰が抜けたような疲労感に襲われる。


 飲食部で働く同僚の古田中栄(75)には引きこもりの息子が居り、やはりこの年まで働かなくてはならない事情がある。


 ある日、PA下りの無料の第二駐車場で長く無断駐車する車に警告書を貼りに行かされたちとせは車内で死んでいる男を発見する。


 ここは甲州街道からも自由に出入りでき、認知症の母を介護する男やシングルマザーなど車上生活者がいるため、生活困窮者を支援するNPO法人「うぐいす」の岡本康文が気にかけてくれていた。


 ちとせも栄も若い頃はそれなりの暮らしをしていたが、年金もなく貯金もほとんどない今、倹約に倹約を重ねてどうにか生きている状態だ。だがそんな寂しい心の隙間を突くように、悪人は寄ってくる。


 人が一瞬だけ行き交うPAの裏で必死に働き続ける老女たちがある事件で手を組んだ。死んだ者は葬り、生き残った者に希望を持って生きのびさせるための大胆な行動とは?


 人は誰でも年を取る。その日その日を必死に生きる老女たちの来世に幸あれ。


キャリア警察官の知られざる生態

『警察官僚―0・2%未満のキャリアの生態』古野まほろ(祥伝社新書)

 ドラマや小説では捜査の邪魔をする敵役として描かれることが多い警察官のキャリア組。国家公務員総合職試験に合格し、警察庁の採用試験に合格したエリートたちは、実は日本の警察官二十六万人余りのうち五百人ほどしか存在しないという。

 元キャリア警察官でミステリ作家の著者が、自身の経験から現場での役割などを明かす。特権はあるのか、警察内での力関係はどうなっているか、犯罪捜査とは全く違う警察の姿を分かりやすく説明していく。警察小説を読むときに非常に参考になる階級・職制対応表つき。

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