少年犯罪は皆更生させられるのか 『不可逆少年』評・円堂都司昭

文字数 1,071文字

(*小説宝石2021年3月号掲載)

『不可逆少年』五十嵐律人(講談社)本体1600円+税

 デビュー作『法廷遊戯(ほうていゆうぎ)』が話題になった弁護士作家・五十嵐律人(いがらしりつと)は、第二作『不可逆少年』で少年犯罪とむきあい、彼らの過去と未来を考える家庭裁判所調査官・瀬良真昼(せらまひる)を主人公にすえた。


 男性三人が殺され、女子高生も毒殺されかけたが生き残る事件が起きる。狐の面で犯行を動画配信したのは、十三歳の少女だった。刑法上で処罰されない刑事未成年者だ。助かった女子高生は、姉だった。事件の犠牲者の子どもが事件を起こし、担当になった真昼は、思い悩む。彼は「やり直せるから、少年なんだよ」と信じていた。だが、赴任先の上司は「不可逆少年」がいるという。生物学的要因で更生できない、元に戻れない不可逆的な存在がいるのだと。教育による更生を旨とする少年法に反する認識だが、凶悪事件に接した真昼は信念が揺らぐ。


 被害者たちの子どもと生き延びた一人は、みな同じ高校に通っていた。だが、自分を虐待した男を殺した犯人に感謝するものもいて、思いは一様ではない。作中では覚醒剤、女子高生の髪を切る「カミキリムシ」といった犯罪が語られ、行為への耽溺(たんでき)から抜け出したい、やめさせたいと望む若者が描かれる。真昼は、彼らとどのようにかかわっていくのか。


 お笑いには珍しい否定しないツッコミで注目された漫才コンビ・ぺこぱは「時を戻そう」を決まり文句にしている。元に戻れる可逆性と否定しないことが結びついているわけだ。更生においても、ただ否定して排除するのでなく、まず受けとめることが第一歩となる。とはいえ、それはどこまで可能か、難しい。大人に受けとめてもらう前に、自分たちだけでどうにかしようともがく少年少女の姿が哀しい。

異様な状況ばかりのデビュー作品集

『あと十五秒で死ぬ』榊林銘(東京創元社)本体1800円+税

撃った犯人と被害者の一瞬の攻防。推理クイズドラマの見逃した短い時間でなぜあんな結末に至ったのか。繰り返される車中の夢の意味。首の着脱が可能な島民が住む地で起きた殺人事件。榊林銘(さかきばやしめい)『あと十五秒で死ぬ』は、異様な状況ばかりのデビュー作品集だ。第十二回ミステリーズ!新人賞佳作の「十五秒」をはじめ、収録された四作すべてが、「十五秒で死ぬ」という状況を核にした物語になっている。どれもとてもきつい制約がある趣向なのに、展開には大きな紆余曲折(うよきよくせつ)があり、ニヤリとさせるオチまでついている。これほど楽しい十五秒はない。

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