『インタヴュー・ウィズ・ザ・プリズナー』評・三浦天紗子

文字数 1,014文字

〈バートンズ〉よ永遠なれ。
(*小説宝石2021年8・9月合併号掲載)

『インタヴュー・ウィズ・ザ・プリズナー』皆川博子(早川書房)

 十八世紀ロンドン。解剖教室に、奇妙な二体の死体が現れたと思ったら消え、詩人志望の少年の切ない運命と稀覯本の謎が絡む『開かせていただき光栄です』。それから五年後、謎の暗号が胸に刻まれた死体が発見されたのを皮切りに、陰惨な事件が暴かれていく『アルモニカ・ディアボリカ』。活躍するのは、エドやナイジェル、アル、ベン、クラレンスなど外科医ダニエル・バートンの愛弟子たち〈バートンズ〉だ。両作とも、畳みかけるような謎のすばらしさは言わずもがな。加えて、どの人物も愛さずにはいられない個性の持ち主であるのも大きな魅力だ。

『インタビュー・ウィズ・ザ・プリズナー』では、舞台は初めて独立戦争中のアメリカに移る。国営軍と叛乱軍が対立し、さらに先住民族の〈モホーク〉が複雑な立場で参戦する。のっけからエドが殺人容疑で投獄されているのを知り、驚くが、独房の中からいわば安楽椅子探偵のように推理を巡らせていくさまはスリリングだ。

 物語は、〈犯行〉の章と〈調査〉の章、二つの時制をまたいで進む。イギリスから新兵として新大陸へ渡ってきたエドとクラレンスが、船長の謎の死や、売春宿で事件を起こした上官の変死などいくつもの事件に遭遇していく。一方、時は遡り、〈ニューヨーク・ニューズレター〉の記者ロデリックが、エドと対峙し、物語の軸となるコロニストとモホークの両親を持つアシュリーの死の真相に迫っていく。その背景には、先住者を支配しようとする者たちと抵抗する者たちの、歴史では何度も繰り返されてきた殺戮や差別といった悲劇がある。

 本作でもまた、弱き者のために動くエドの気高さが胸に焼きつく。涙なしには読めないラストだ。

長袖が、戦闘服だった。

『象の皮膚』 佐藤厚志(新潮社)

 幼少期から、学校でも家庭でもアトピー性皮膚炎をからかわれていた主人公の五十嵐凜。成長してからは書店員として、無理難題を押しつけてくる客をさばく〈自動販売機〉に徹して働いている。がさがさにひび割れた皮膚同様にひび割れている凜の心は、長袖の服で隠されている。コンプレックスやイヤな記憶やアプリゲームの恋人の存在など、自分が守り守られてきた世界が砕けたとき、凜は少しだけ、がんじがらめだった自分を解放する。心身の痛がゆさを抱えた彼女の勇気と前進を応援したくなる。

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