『ブレイクニュース』 評・西上心太

文字数 1,028文字

SNS時代のジャーナリズム
(*小説宝石2021年8・9月合併号掲載)

『ブレイクニュース』薬丸岳(集英社)

 いまや子供たちの憧れの職業の上位に挙げられるようになったのがユーチューバーだ。品質の良し悪しは別にして、誰もが簡単に映像作品を全世界に向けてアップロードできるようになった。趣味の多様化も手伝いニッチな内容でも思わぬ人気を得ることができる反面、軽率な投稿により取り返しのつかない事態を招く場合もある。

 野依美鈴という女性がキャスターを務める「ブレイクニュース」は、社会問題を正面から取り上げるユーチューブチャンネルだ。始まってから半年ほどだが、美鈴の美貌も手伝い、時に一千万回を超す動画視聴回数を誇っている。撮影カメラマンだけを連れ、関係者に突撃取材を試みるのが美鈴の手法で、さまざまな問題に鋭く切り込んでいく。週刊誌記者の真柄新次郎は、彼女をジャーナリスト紛いのキワモノと思っていたが、徐々にその実力に瞠目するようになり、経歴不明の彼女の正体を探ろうとする。

 児童虐待、中年の引きこもり、冤罪、パパ活売春、SNS炎上によるバッシング。連作短編の形を取りながら、各挿話でこのようなテーマが俎上に登るのだ。一見インモラルに思える取材を敢行する美鈴だが、意外な意図が隠されていて驚かされる。

 どのような批判があろうと、「真実を追究しようとする(中略)頑なさと、そのためにはどんな手段も厭わない冷徹さ」を持ち続ける美鈴の真意は何か。それが全編を通して最大の謎であり、旧ジャーナリストを代表する真柄という人物を介して、最後にその秘密が明らかになる。

 SNSの時代における報道が持つ力と破壊力、そしてその危険性をエンターテインメント性豊かに描いた作品だ。


探偵AI大活躍の館ミステリー

『四元館の殺人 探偵AIのリアル・ディープラーニング』 早坂吝(新潮文庫nex)

 探偵AIの相以と犯人AIの以相。天才科学者が生みだした双子のAIの確執と戦いを描くシリーズ三作目。

 電脳空間に脱出した以相が開いた犯罪オークションを落札したのは、慕っていた従姉を殺され犯人への復讐を誓う少女なのか。以相の犯行を防ぐため、相以と助手の合尾輔は少女が住む四元館に赴くが、新たな事件が。

 AIの突飛な行動と推理に加え、全体を館ミステリーのパロディに仕立てた趣向が楽しい。一見奇抜さのない館が果たす役割は破壊力抜群で、びっくりの後に大爆笑。昭和の名作SF漫画を思い起こさせる、極北の館もの。

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