『真・慶安太平記』評・東えりか

文字数 1,012文字

慶安事件を巡るミステリー
(*小説宝石2022年1・2月合併号掲載)

『真・慶安太平記』真保裕一(講談社)

 三代将軍家光逝去の後、知恵伊豆こと老中松平信綱は、市中に謀反が起こらぬよう目を光らせていた。その中で由比正雪ら浪人による幕政批判の乱の企てを未然に防いだ(慶安事件)。この騒動までの経緯を家光の異母弟、保科正之の目を通して描いたのが本書である。


 そもそも家康、秀忠そして家光までの徳川幕府は盤石とは言えず、兄弟をも姦計にかけ排除する時代であった。秀忠の落胤である保科幸松(のちの正之)は信濃高遠藩にあり大御所秀忠の目通りを待って元服後、家督を継ぐことになっていた。


 家光は元来、蒲柳の質であり小姓を寵愛するゆえ跡取りがない。才に長けた弟、松平忠長を恐れ、もう一人の弟、幸松の大御所への目通りも許さなかった。最後の望みと忠長に面会した幸松は、徳川家を護るため身内の間で醜い争いはするな、徳川の世を守っていけと諭される。その誓いを胸に正之は家光の家臣として過ごす決意を固めた。


 養父の死により家督を継ぎ元服した正之は高遠藩主として生きることを誓う。忠長も松平信綱ら、家光の側近たちの企てにより自刃させられた。


 秀忠、忠長の死によって晴れて真の将軍となった家光は次第に身内として正之を頼むようになる。乳母、春日局が図り世継ぎを得た家光が望むのは徳川家による幕府の存続。そのため多数の大名の改易・減封が続き多くの浪人が生じ社会問題となっていた。そこに現れたのが由比正雪であったのだ。


 本当の首謀者は誰で目的は何か。数千人の弟子がいたと言われようとも、一介の町家の兵法者をなぜ幕閣が知りえたのか。ミステリー作家、真保裕一の筋書きが冴えわたる。血沸き肉躍る物語となった。

風呂で取材した第二次世界大戦

『戦争とバスタオル』安田浩一文 金井真紀文・絵(亜紀書房)

「銭湯友だち」のふたりが、第二次世界大戦に関係したアジアの温泉に入り、地元の人から話を聞くという秀逸な一冊だ。バスタオル持参で出かけた先はタイ、沖縄、韓国、神奈川県寒川、広島県大久野島。かつての秘湯もイマドキはSNSで発信され観光地になっていた。

 女風呂と男風呂では話の内容も違うし、思わず本音も飛び出す。男女交互に書かれた文章は性別による見解の違いが反映されていて興味をそそられる。

「お風呂は究極の非武装」。こんな切り口で戦争を取材できるのか、と驚かされた。続編を期待したい。

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