学生寮が舞台の傑作青春小説『お庭番デイズ 逢沢学園女子寮日記』評・東 えりか

文字数 1,105文字

※2020年小説宝石11月号より
『お庭番デイズ 逢沢学園女子寮日記有沢佳映(講談社)

(上)本体1500円+税 (下)本体1600円+税

 都内にある中高一貫教育の共学私立学校、逢沢(あいざわ)学園には自宅通学生の他に、学園敷地内にある男子寮と女子寮から通う生徒がいる。本書は校舎の玄関まで徒歩二分の女子寮が舞台だ。寮生はまだまだこどもから抜け切れない十三歳の一年生から大人一歩手前、十八歳の六年生まで。授業中以外は四階建てのこの寮で共同生活を営んでいる。一年生から三年生までは同い年三人で一部屋、四年生以上はふたりで一部屋があてがわれる。


 一〇一号室の戸田明日海(とだあすみ)(通称アス)、藤枝侑名(ふじえだゆきな)、宮本恭緒(みやもとたかお)は一年生。最初は小学生気分が抜けなかったが、半年近く経つと、すっかり寮生活に馴染み楽しんでいる。朝は六時半に起床、掃除を終えると食堂で全員一緒に朝ご飯を食べる。大急ぎで洗面とトイレを済ませれば、あとは学校へ一目散。行きたくないなんて言っている暇はない。


 この女子寮には「ピープル・ヘルプ・ザ・ピープル」というモットーのもと、寮生は学園内のトラブル解決に取り組み、人助けをするという約束事がある。その情報収集を行う任務が「お庭番(にわばん)」だ。先輩たちの卒業によって一〇一号室の三人がお庭番に任命された。最初は嫌がっていたアスたちだが、次第に真剣に取り組むようになっていった。人助けといっても大人から見れば思春期にありがちな淡い恋やら喧嘩(けんか)やら。でも彼女たちは真剣に考え、解決へ導く。


 登場人物が七十人以上(幽霊含む)なのに物語が進むうちにきちんとキャラクターが立ちあがっていく。凄惨(せいさん)な事件は一つも起こらないのに寮生活はワクワクドキドキの連続だ。彼女たちの悩みに感情移入してついほろり。

 学生寮を舞台にした青春小説の傑作だ。

知れば知るほど好きになる着物のあれこれ

『着物の国のはてな』片野ゆか(集英社)本体1500円+税

 着物に縁遠い生活を送っていた著者が、五十代を迎え「着てみよう」という気になった。幸いにも母親の形見がたくさん残っている。何とか着付けて鏡に映すとなぜか姿はやつれた老婆。なぜ自分は似合わないのか、から調べ始め、着付け教室や着物の値段、たくさんある着方のルールなど着物業界の不思議にばっさばっさと切り込んでいく。


 日本人だからって着物を着なきゃならないわけじゃない。たかが着物、されど着物。でもせっかくなら綺麗に着たい。コーディネイトから着付けのちょっとしたコツまで判れば、あとは外に出ていくだけだ。楽しい着物ライフを満喫しよう。

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