『北緯43度のコールドケース』評・西上心太

文字数 1,030文字

初挑戦で鮮烈デビュー
(*小説宝石2021年11月号掲載)

『北緯43度のコールドケース』伏尾美紀(講談社)

 クローズドサークルで起きた密室殺人と武侠小説が融合した本格ミステリーである桃野雑波『老虎残夢』。そして札幌を舞台に未解決事件に挑む女性刑事を描いた本書。第六十七回江戸川乱歩賞は対照的な二作が同時受賞する運びになった。


 札幌郊外の倉庫から、死後間もない女児の遺体が発見され、三歳の時に誘拐された島崎陽菜であることが判明した。誘拐があったのは五年前のこと。犯人の男は札幌駅で身代金を奪い、逃走中にホームから転落し轢死。人質の行方が不明のまま、事件は迷宮入りしていたのだ。成長した人質が発見されるという新たな展開により、共犯者の存在が浮かび上がる。秘かに陽菜を育てていた理由は、そしていまになってなぜ彼女を殺したのか。事件は世間の注目を浴びるが、またしても捜査は難航するのだった。


 大学院で経営組織科学を学び、博士号を持つノンキャリアの女性刑事という主人公の設定には興味をひかれる。熱量が豊富でページをめくらせる力のある作品だが、ギクシャクした印象も受ける。誘拐の構図や、ある人物が置かれた状況など感心する点も多いのだが、選評で縷々指摘されていたように、ヒロインのトラウマや家族問題、警察の機密漏洩問題など、あれこれと詰め込みすぎたためだろう。それらのエピソードがばらばらで終わることなく、ヒロインの行動原理となったり、プロットと有機的に結びついていくのではあるが。


 経歴を見たらミステリーを書いたのも投稿したのも初めてというので驚いた。それでこれだけ読ませる作品を書き上げたのだから、これからが楽しみだ。テクニックは後からついてくる。シリーズ化も期待できるデビュー作となった。

元白バイ隊員が描く警察ミステリー

『開署準備室 巡査長・野路明良』松嶋智左(祥伝社文庫)

 白バイ隊員だった野路は、交通事故の後遺症のため内勤となり、新所轄署開設のための準備室に異動となる。そんなおり、県内の山から白骨遺体が発見された。


 作者は元女性白バイ隊員というキャリアを持つ、期待の警察小説の書き手である。警察署の新設という、そう頻繁にはない事業の詳細と、白骨遺体の顛末が結びつくプロットは意外性たっぷりで感心した。作品の根幹になる〝トリック〟は、かなり強引だが、主人公の特技を生かしたハリウッド映画並みのアクションに、クライマックスのカタストロフシーンが加わり、大いに楽しめた。

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