石灯籠()はなぜ赤()い
広()い
庭()だった。
築山()や
池()が
設()けられ、
石()灯籠()がいくつも
置()かれている。それはいつもなら
風()流()な
光景()だっただろうが、
今()は
違()った。
石()灯籠()のひとつに
赤()いペンキがぶちまけられ、
表()面()を
覆()っているのだ。
屋()敷()の
当()主()が
懐()中()時計()を
見()ながら
声()を
震()わせた。
「
今朝()起()きたらこんなことになっていた。
犯人()はなぜこんなことをしたのか、
突()き
止()めてもらいたいのだ」
名()探偵()は
真()っ
赤()な
石()灯籠()をじっと
見()つめたが、すぐに
自()信()に
満()ちた
口()調()で
言()った。
「いくつかの
可()能()性()が
考()えられます」
「ほう?」
当主()は
興()味()深()げな
顔()をした。
「
第一()の
可()能()性()。
犯人()は、
石()灯籠()に
飛()んだ
血()を
消()したかったのです」
「
血()?」
「この
石()灯籠()のそばで
誰()かが
刺()殺()され、そのときに
飛()び
散()った
血()が
石()灯籠()に
付()着()した。
犯行()を
隠蔽()したかった
犯人()は、
血()を
隠()すため
赤()いペンキをかけたのです」
「ペンキがかけられたのは
昨()夜()だ。
暗闇()では
石()灯籠()に
付()着()した
血()が
見()えないのではないかな。それに、
血()が
付()着()したのは
突()発()的()な
出()来()事()だろう?
夜()中()にペンキを
調()達()できたとは
思()えない」
「では、
第()二の
可()能()性()。この
石()灯籠()は
張()りぼてだった。
石()ではなく
軽()いプラスチックであることを
隠()すためにペンキをかけたのです」
「
張()りぼて?
犯人()がすり
替()えたというのかね。この
石()灯籠()は六百キログラムもある。すり
替()えようとしたら
何()人もの
人間()が
必要()だし、
夜()中()にそんな
作()業()が
行()われたら
音()で
必()ず
気()づかれていただろう」
「すり
替()えるような
面倒()なことをする
必要()はありません。もともとこの
位置()には
石()灯籠()はなかった。
犯人()はこの
位置()に
張()りぼてを
置()いてペンキをかけたのです」
「それまで
石()灯籠()がなかった
位置()に
張()りぼてを
置()いたら、
当主()の
私()にすぐに
気()づかれるはずだが」
「はい。したがって、
今朝()起()きたら
石()灯籠()に
赤()いペンキがかけられていたというあなたの
言葉()は
嘘()であることになります」
「
嘘()?」
「
私()が
見()破()れるかどうか
試()していたのでしょう」
当主()は
懐()中()時計()を
見()てにこりとした。
「
合格()だ。あなたを
採用()しよう」
「――
採用()?
何()のことです」
名()探偵()は
面()食()らった
顔()になった。
「
張()りぼてであると一
分()以()内()に
見()破()れた
者()に
事()件()の
調()査()を
依()頼()しようと
考()えていた。五
人()の
探偵()を
呼()んだが、一
分()以()内()に
見()破()れたのはあなただけだ」
「それは
光栄()です。しかし、
試()験()をするにしても、なぜ、
石()灯籠()に
赤()いペンキがかけられたという
状()況()にしたのです?」
当主()の
顔()に
照()れたような
笑()みが
浮()かんだ。
「
若()い
頃()、そういう
設定()で
推()理()小()説()を
書()こうとしたことがあってね。『
石()灯籠()はなぜ
赤()い』なんてムードがあるだろう? さて、あなたに
本当()に
依()頼()したい
事()件()だが……」
大山誠一郎(おおやま・せいいちろう)
1971
年()、
埼玉()県()生()まれ。
京()都()大学()推()理()小()説()研()究()会()出()身()。2004
年()に『アルファベット・パズラーズ』でデビュー。2013
年()に『
密室()蒐()集()家()』で
第()13
回()本格()ミステリ
大()賞()(
小()説()部()門())を
受()賞()。『アリバイ
崩()し
承()ります』は「2019
本格()ミステリ・ベスト10」で
第()1
位()に
輝()き、
連続()ドラマ
化()も
果()たす。
他()の
著書()に、『
仮()面()幻()双()曲()』『
赤()い
博()物()館()』がある。
【
近刊()】