〈7月7日〉 オカザキ・ヨシヒサ

文字数 2,319文字

()(かい)ウサギの発明品(はつめいひん)


 この()(かい)のあるところに、(おお)きすぎもしなければ(ちい)さすぎもしない、フモールという(まち)があって、(おお)すぎもしなければ(すく)なすぎもしない(ひと)びとが()らしていた。
 フモールの(まち)はずれには、(きょ)(だい)なお(とう)()のような(まど)のない建物(たてもの)があって、()(かい)ウサギのヤン・ストロイという(ひと)()んでいた。そう、(かれ)(ひと)だ。()(かい)ではないし、ウサギでもない。なのになぜ()(かい)ウサギかというと、ウサギの姿(すがた)をして()(かい)いじりばかりしているからだった。ヤン・ストロイは(はつ)(めい)()なのだ。
 ある()ふけのこと、(かれ)完成(かんせい)した発明品(はつめいひん)実験(じっけん)をするために助手(じょしゅ)のマーリクを()んだ。マーリクは(じゅう)(さん)(さい)(おとこ)()で、まっ(しろ)()(めん)をつけている。()きているときも()ているときもだ。でも()(けつ)なのは(にが)()なので、(かお)(あら)うときは()(めん)をはずす。(まち)(ひと)たちはみんな、ヘンだからやめろと()ったが、()(かい)ウサギのヤンだけは、()(ゆう)()(ぶん)()(しん)への(だい)(いっ)()だな! と()って、(しょく)()のとき(くち)のまわりがパカッとひらくように()(めん)(かい)(ぞう)してくれた。
 さて、ヤンの(あたら)しい発明品(はつめいひん)は、()のひらサイズのふたつの(にん)(ぎょう)だった。(つち)のような金属(きんぞく)のような()ざわりで、ひとつは「あ」の(かたち)(くち)をひらいていて、もうひとつは「ん」の(かたち)にとじている。ふたつの(にん)(ぎょう)(りょう)()にもって、「あ」をにぎると(からだ)(おお)きくなっていき、「ん」をにぎると(ちい)さくなっていく。
 マーリクはまず、「ん」の(にん)(ぎょう)をにぎりしめた。すると(かれ)(からだ)はシュルシュルと(ちい)さくなっていった。ヤンが(きょ)(だい)ウサギになり、実験(じっけん)テーブルの(あし)(きょ)(じゅ)のようにそびえ、実験(じっけん)(しつ)(ゆか)()てしない(こう)()のようにひろがってもなお、マーリクは(ちい)さくなりつづけた。()(せい)(ぶつ)とおなじサイズになると、(いっ)(しゅん)だけ、(かれ)らと(はなし)ができそうな()がしたものの、そのままさらに(ちい)さくなっていき、とうとう(げん)()(なか)()ちそうになった。
 そこで(こん)()は、「あ」の(にん)(ぎょう)をにぎりしめた。(かれ)はムクムクと(おお)きくなっていき、()(せい)(ぶつ)をあっという()にとおりこし、ヤンがなにか()おうとしたときにはもう、実験(じっけん)(しつ)(てん)(じょう)をぶちぬいて(きょ)(だい)()し、フモールの(まち)のどの()よりも(たか)くなり、(あたま)(くも)をつきぬけ、ついにはお(つき)さまとおしゃべりできそうなほど(おお)きくなったが、(くう)()がうすくて(いき)(ぐる)しいものだから、「ん」の(にん)(ぎょう)をにぎりしめた。
 マーリクがもとにもどるとヤンは、どのサイズがいちばんよかったかたずねた。するとマーリクは満足(まんぞく)そうに()った。
「このサイズがいちばんだよ!」


オカザキ・ヨシヒサ(岡崎祥久(おかざきよしひさ)
1968(ねん)(とう)(きょう)()まれ。(さっ)()。「(びょう)(そく)10センチの越冬(えっとう)」で(だい)40(かい)(ぐん)(ぞう)(しん)(じん)(ぶん)(がく)(しょう)、『(らく)(てん)()』で(だい)22(かい)()()(ぶん)(げい)(しん)(じん)(しょう)(じゅ)(しょう)著書(ちょしょ)に『バンビーノ』『(みなみ)(くだ)(みち)』『(くび)()(ひめ)』『(どく)(がく)()(ほう)ノート』『ctの(ふか)(かわ)(まち)』『(ぶん)(がく)(てき)なジャーナル』『ファンタズマゴーリア』『ポシーとポパー ふたりは探偵(たんてい)』など。

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