〈7月5日〉 海猫沢めろん

文字数 1,792文字

(なつ)のぬけがら

 いつまでもつづくとおもっていた(せみ)時雨(しぐれ)()わったあと、わたしはおとうとと(むし)とりあみをかついで、(みどり)竹林(ちくりん)のあいだをふわふわとおよぐ(なつ)のぬけがらをつかまえにいった。
 その()のあさ、わたしはいつものようにおとうとの(あたま)(みず)でぬらしてねぐせをとってやり、(ひる)ごはんのそうめんをのどのおくにすべらせるようにおなかにおさめてサンダルをはくと、おとうとといっしょに(いえ)(まえ)にひろがっている(みず)のはられた()んぼのあぜ(みち)をとおって、神社(じんじゃ)境内(けいだい)近道(ちかみち)をぬけて石橋(いしばし)をわたり(やま)をのぼった。しめった(つち)のうえでひやされた()()()(かわ)やロウソクや花火(はなび)()えかすには(なつ)がしみこんでいて、ふんずけるとそこからじわりとしみだしたものに(あし)をとられそうになる。
 墓地(ぼち)(うら)にある竹林(ちくりん)にちかづくにつれて、わたしたちは足音(あしおと)をたてないように(ねこ)みたいなつまさき(ある)きになって、(むし)とりあみを両手(りょうて)でかまえる。入道(にゅうどう)(ぐも)(つよ)すぎる日差(ひざ)しをさえぎり、竹林(ちくりん)をぬりつぶすようにひろがった(かげ)のなかで、ふっと(なつ)のぬけがらがあらわれる。
 それはうすい(いろ)がついたゼリーみたいにすきとおっていて、ひとつひとつが、くらげみたいにひざのあたりの(たか)さでただよっている。おとうとがそれを(むし)とりあみでつかまえるが、すぐに()えてしまう。むちゅうになってあみをふりまわすようすを()ていると、どこからともなくまた(せみ)のなきごえが(ひび)いてきてあたりがまっくらになった。
 どのくらいたっただろう。
 いつまでもつづくとおもっていたくらやみの(なか)で、だれかがわたしの(あたま)につめたい(みず)をかけた。(せみ)のこえがやんで、あたりがあかるくなってどこからともなくお線香(せんこう)とお(そな)(もの)のあまいにおいがただよってくる。
 ()をあけると、白髪(しらが)のおじいさんがわたしにむかって()()わせている。(よこ)にいる(まご)らしき(ちい)さな子供(こども)が、おじいちゃんのあたまに()()ばして、ねぐせをいっしょうけんめいになおしていたかとおもうと、びっくりしたかおでわたしをみて、そばにあった(むし)とりあみを()にする。
 つぎのしゅんかん、わたしは(なつ)のぬけがらのひとつになっていて、(ちい)さなこどもにつかまえられて()えた。


海猫沢めろん(うみねこざわ・めろん)
1975(ねん)大阪(おおさか)()()まれ、兵庫(ひょうご)(けん)(そだ)ち。高校(こうこう)卒業(そつぎょう)()、デザイナーやホストなどを経験(けいけん)し、文筆(ぶんぴつ)(ぎょう)に。『キッズファイヤー・ドットコム』で(だい)59(かい)熊日(くまにち)文学(ぶんがく)(しょう)受賞(じゅしょう)著書(ちょしょ)小説(しょうせつ)(ひだり)()(しき)ラストリゾート』『全滅(ぜんめつ)(のう)フューチャー!!!』『ニコニコ時給(じきゅう)800(えん)』『(あい)についての(かん)じ』『(なつ)方舟(はこぶね)』、エッセイ『もういない(きみ)(はな)したかった7つのこと 孤独(こどく)自由(じゆう)のレッスン』『明日(あした)機械(きかい)がヒトになる ルポ最新(さいしん)科学(かがく)』『パパいや、めろん』など

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