〈7月13日〉 鯨井あめ
文字数 2,507文字
八月 のアイスを待 () つ
「生 () きかえれ、夏 () 休 () みー!」
マスクを外 () したナナが、叫 () んだ。日 () 傘 () を忘 () れた彼女 () はビルの影 () のなかを歩 () いている。
「なくなったねぇ、夏 () 休 () み」
ナナの隣 () でララが応 () える。彼女 () は日 () 傘 () を差 () していた。ふいに顔 () を出 () した太陽 () から身 () を隠 () し、マスクをしない代 () わりに人 () と距 () 離 () を保 () つためである。
六月 () になってようやく中 () 学 () 二年 () 生 () が始 () まった。行 () 事 () はなくなり、部 () 活 () も制限 () され、勉 () 強 () ばかりの一か月 () 半 () が過 () ぎた。
いまは下校 () 途中 () だ。ふたりは幹線 () 道路 () 沿 () いを歩いている。
「さっきまで曇 () ってたのに」ナナが晴天 () を睨 () む。「これ以 () 上 () 、暑 () くなったらさ」
ララは同 () 意 () する。「頭 () から溶 () けちゃうね」
「ほんと。じめじめするのは嫌 () だけど、普通 () に暑 () いのも嫌 () !」
久々 () の晴 () れ間 () だった。何日 () かぶりの陽 () 射 () しがアスファルトを焼 () いている。梅雨 () の隙間 () から、じわじわと夏 () 本番 () が近 () づいていた。
「夏 () 休 () みって、暑 () いから休 () みになるのに、今年 () ときたら!」
ナナは文 () 句 () を言 () いかけたが、「あっつー。むり」とげんなり首筋 () の汗 () をぬぐった。
ララも冷 () たいものが食 () べたい。
「あ」
交 () 差 () 点 () の手 () 前 () にコンビニの看板 () が見 () えた。
「提案 () します。アイス」
「採用 () !」
ふたりは早足 () になった。
開 () けっ放 () しのドアをくぐると、コンビニ内 () は冷房 () が効 () いていた。制服 () をパタパタしながらアイスコーナーへ向 () かい、覗 () きこんで顔 () を合 () わせた。
「どれにする?」
「どれにしよう」
悩 () んだ末 () にコーンのアイスを選 () んだ。ナナはチョコ味 () 、ララはバニラ味 () だ。
レジ袋 () を断 () って、冷 () 気 () に後 () ろ髪 () を引 () かれながらコンビニを出 () た。近 () くの公園 () のベンチに座 () った頃 () には、アイスは溶 () けかけていた。こもれびの下 () で、ふたりは慌 () てて包装 () をとる。
「うまい!」一口 () で上 () 部 () をほとんど食 () べたナナが、頬 () に手 () を当 () てた。「冷 () たい!」
ララもぱくりとかぶりついた。「おいしい。やっぱり放課後 () のアイスは格別 () だね」
「暑 () いときほどアイスはうまくなる。これ、この世 () の真 () 理 () 」
「ナナと一緒 () だともっとおいしいよ」
「なぬ、嬉 () しい」
「これからまた雨 () だから、いまのうちに堪能 () しよう」
パクパクと食 () べ進 () め、「でも」とララは少 () しだけ後悔 () した。
「新作 () のかき氷 () もおいしそうだったなぁ」
「また食 () べればいいじゃん」
ナナが笑 () う。前髪 () が汗 () で額 () に貼 () りついている。
「八月 () の放 () 課 () 後 () のアイス、絶対 () に最高 () だよ」
「あ、そっか。学校 () があるから」
ララも笑 () った。
「放 () 課 () 後 () に一緒 () に食 () べれるね」
今年 () だけ体験 () できる、八月 () の放 () 課 () 後 () に。
ふたりで一緒 () にコーンにかじりつくと、サクッと音 () が重 () なった。
鯨井あめ(くじらい・あめ)
1998年 () 生 () まれ。兵庫 () 県 () 豊岡 () 市 () 出身 () 。兵庫 () 県 () 在 () 住 () 、大学 () 在学 () 中 () 。執筆 () 歴 () 11年 () 。2015年 () より小 () 説 () サイトに短編 () ・長 () 編 () の投稿 () を開 () 始 () 。2017年 () に『文学 () フリマ短編 () 小 () 説 () 賞 () 』優 () 秀 () 賞 () を受 () 賞 () 。第 () 14回 () 小 () 説 () 現代 () 長 () 編 () 新人 () 賞 () を受 () 賞 () し、『晴 () れ、時々 () くらげを呼 () ぶ』でデビュー。
【近刊 () 】
「
マスクを
「なくなったねぇ、
ナナの
六
いまは
「さっきまで
ララは
「ほんと。じめじめするのは
「
ナナは
ララも
「あ」
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「
ふたりは
「どれにする?」
「どれにしよう」
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「うまい!」一
ララもぱくりとかぶりついた。「おいしい。やっぱり
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「ナナと
「なぬ、
「これからまた
パクパクと
「
「また
ナナが
「八
「あ、そっか。
ララも
「
ふたりで
鯨井あめ(くじらい・あめ)
1998
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