〈7月4日〉 藤谷治

文字数 2,155文字

へんな質問(しつもん)


 (きみ)もつねづね、疑問(ぎもん)(おも)っていると(おも)うが、UFO(ユーフォー)というのは、どうしてあんなに、コソコソしているんだろうね。
 いなか(まち)とか(やま)(なか)とか、そんなところにばっかり()てきて、一人(ひとり)二人(ふたり)()つけられるだけ。どうせ()るなら、土曜日(どようび)のお(ひる)あたり、にぎやかなところに、どばーん! と(あらわ)れたらいいようなもんじゃないか。
 宇宙(うちゅう)から()てるっていわれているのに、そこらを(ある)いている人間(にんげん)()つかるまでわからない、というのも(へん)だ。世界(せかい)にはいくつも天文台(てんもんだい)がある。
 宇宙(うちゅう)(じん)が、ちょっと人間(にんげん)()ているのも、おかしい。宇宙(うちゅう)(ひろ)いんだから、宇宙(うちゅう)(じん)だって、地球(ちきゅう)じゃ想像(そうぞう)もできないような(かたち)をしてる(ほう)が、むしろ当然(とうぜん)じゃないのかな。
 ……と、ぼくもずっと(おも)っていた。だからやっぱり、UFO(ユーフォー)なんて、どうなの? って。
 ところが、そうじゃなかったんだ。()たんだよ、昨日(きのう)。ぼくの(いえ)(まえ)に。
 (よる)()ようと(おも)って()(じま)りをしていると、(きゅう)(そと)がパーッと(あか)るくなって、(けい)トラックくらいの(おお)きさの円盤(えんばん)が、(にわ)(おと)もなくおりてきた。そいで(した)からタラップみたいなものが()てきて、(なか)から()(たか)(おとこ)(ひと)()てきた。
夜分(やぶん)おそくに、すみません」そいつは()った。「ちょっと様子(ようす)()()ただけですので」
「あんた(だれ)だ」ぼくはたずねた。
「ぼくは……説明(せつめい)がむずかしいな」そいつは(あたま)をボリボリかいた。「ぼくはつまり……こことはちがう世界(せかい)の、ちがう未来(みらい)人間(にんげん)です」
 (なに)()っているのか、さっぱりわからなかった。
世界(せかい)というのは、この世界(せかい)ひとつっきりじゃないんです。無数(むすう)にあるんです」
宇宙(うちゅう)(じん)じゃないのか」
「そういう誤解(ごかい)は、よくされるんですが」そいつは()った。「これは宇宙(うちゅう)(せん)じゃなくて、(べつ)世界(せかい)にスライドして()かれる()(もの)なんです」
「なんの(よう)だ」ぼくは、それしか()えなかった。
(よう)っていうか、様子(ようす)()()たんです」そいつは()った。「ここは、大丈夫(だいじょうぶ)ですか?」
(なに)が」
未来(みらい)は、大丈夫(だいじょうぶ)ですか、この世界(せかい)未来(みらい)は」
「そんなこと、オレにきかれたって」ぼくはオロオロした。「オレ一人(ひとり)で、未来(みらい)なんか()められないし」
「そうですか」そいつは、ぼくをじっと()つめた。「では、そういう未来(みらい)になる、ということです」
 そいつはペコリとおじぎをして、タラップに(あし)をかけて、円盤(えんばん)()りこもうとした。
()()て!」ぼくはあわてた。「どういう意味(いみ)だ、そういう未来(みらい)って!?」
「また()ます」
 そいつはそう()って、円盤(えんばん)(なか)(はい)ってしまった。
 そして円盤(えんばん)はすーっと(そら)()がって、()えた。
 どうする? (きみ)なら、なんて()う?
 また()るってよ。


藤谷治(ふじたに・おさむ)
1963(ねん)東京(とうきょう)()()まれ。2003(ねん)『アンダンテ・モッツァレラ・チーズ』でデビュー。2014(ねん)世界(せかい)でいちばん(うつく)しい』で(だい)31(かい)織田(おだ)作之助(さくのすけ)(しょう)受賞(じゅしょう)(ほか)著書(ちょしょ)に『(ふね)()れ!』『(はな)今宵(こよい)の』『()えよ、あんず』『(ねこ)がかわいくなかったら』、新書(しんしょ)小説(しょうせつ)(きみ)のためにある よくわかる文学(ぶんがく)案内(あんない)』などがある。

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