〈8月24日〉 天野純希

文字数 2,874文字

(おう)さまと()(もの)


 (ぼく)たちの(くに)は、(おそ)ろしい()(もの)(しん)(りゃく)されつつあるらしい。
 「らしい」というのは、(だれ)もその姿(すがた)()(ひと)はいないし、(おう)さまはそれを(みと)めていないからだ。(うわさ)では、(へん)(きょう)(むら)がいくつも(かい)(めつ)したとか、たくさんの(ひと)()(せい)になったとか()うけれど、(おう)さまは「(われ)(われ)はうまくやっている。(きょう)()はすぐに()る」と()(かえ)すばかりで、(ほん)(とう)のところはさっぱりわからない。(みやこ)(ほん)()(いとな)(とう)さんは、「お(かね)(だい)()きな(おう)さまのことだから、みんなが()(ごと)をやめたら(ぜい)(きん)()れなくなって(こま)るんだろう」なんて()うけれど、(みやこ)では(おお)くのお(みせ)()まっていて、()(ある)(ひと)はほとんどいない。()(もの)は、(くち)(はな)から(ひと)(からだ)(はい)()んでくるからだ。
 (にぎ)やかだった(みやこ)はすっかり(しず)かになったけど、(ぼく)としては、(がっ)(こう)(やす)みになったおかげで()(もの)(ほん)()()(かん)()えてありがたかった。
 でも、大人(おとな)たちの(あいだ)には()(しん)(あん)()(ひろ)がっていた。「あいつは()(もの)()()かれた」「あそこは(みせ)()けている。()(もの)()(さき)(ちが)いない」。(いち)()(うたが)われたら、もう()(おく)れだ。(だれ)(ちか)づいてこないし、()(ある)けば(いし)()げられる。
 (みやこ)でひどい(さわ)ぎが()こったのは、()(もの)(あらわ)れて(すう)()(げつ)()ぎた(ころ)のことだった。(おう)さまお(かか)えの(だい)(しょう)(にん)()()した「()(もの)()けの(せい)(すい)」に、まったく(こう)()()いことがわかったのだ。(せい)(すい)はとんでもなく(こう)()で、()()をして()った(ひと)たちもいたけれど、それでも()(もの)()()かれる(ひと)(あと)()たなかった。
(せい)(すい)(にせ)(もの)だ!」「(ほん)(もの)()(ぞく)どもが(かく)()ってるに(ちが)いない!」。(うわさ)(みやこ)()(めぐ)り、(ひと)(びと)()(ぞく)()(しき)(おそ)いはじめる。()(ぞく)()(もの)(うば)われた(ひと)もいれば、ただ(あば)れたいだけの(れん)(ちゅう)もいた。(まず)しくても(おう)さまや()(ぞく)()()する(ひと)もたくさんいて、(みん)(しゅう)(どう)()のぶつかり()いも()きた。
 (りゃく)(だつ)(しゃ)が、(なん)(かん)(けい)もない(みせ)(おそ)った。()(ぞく)(だい)(しょう)(にん)()(しき)に、()(はな)たれた。(ぐん)(たい)(しゅつ)(どう)したが、(まず)しい(へい)()たちは(めい)(れい)(したが)わず、(しょう)(ぐん)たちは(われ)(さき)()()した。(いきお)いづいた(みん)(しゅう)(おう)さまの(きゅう)殿(でん)()しかけ、(もん)()(やぶ)る。
 けれども、そこに(おう)さまの姿(すがた)はない。()わりに(かれ)らが()にしたのは、(ほのお)(つつ)まれた(おう)(りつ)()(しょ)(かん)だった。(おう)さまはこの(くに)のすべての()(ろく)()やして、どこかへ()えてしまった。
 (ぼく)(おも)った。(ほん)()こう。この()()(こう)(けい)()()にして、(しょ)(もつ)()(しる)そう。この(くに)()きたことを、()(ぶん)たちのしたことを、(あと)からちゃんと()(かえ)ることができるように。
 だって、こんな()鹿()げた(そう)(どう)、もう()()とゴメンだろ?


天野純希(あまの・すみき)
1979(ねん)()まれ、(あい)()(けん)()()()()(しゅっ)(しん)(あい)()(だい)(がく)(ぶん)(がく)()()(がっ)()(そつ)(ぎょう)()、2007(ねん)に「(もも)(やま)ビート・トライブ」で(だい)20(かい)(しょう)(せつ)すばる(しん)(じん)(しょう)(じゅ)(しょう)しデビュー。2013(ねん)()(てん)(けん)』で(だい)19(かい)(なか)(やま)()(しゅう)(ぶん)(がく)(しょう)(じゅ)(しょう)(きん)(ちょ)に『()(れん)(じょう)()(いし)(やま)(かっ)(せん)()』がある。

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