〈8月11日〉 宮西真冬
文字数 2,768文字
一日経ってから開封してください
「一日 経 () ってから開封 () してください」
届 () いた封筒 () の裏側 () に、そう書 () かれてあった。
郵便 () 受 () けで真奈 () が、イトコの道 () 子 () からの手 () 紙 () を発見 () した時 () 、汗 () だくで喉 () が渇 () いていた。普 () 段 () なら夏休 () みのはずなのに、今 () 年 () は暑 () い中 () 、授 () 業 () が行 () われている。
――なんで、みっちゃんから手 () 紙 () が。
鞄 () の中 () に手 () 紙 () を隠 () して家 () に入 () り、まっすぐ自 () 分 () の部屋 () に行 () く。
ベッドに座 () って封筒 () を眺 () める。なにが書 () かれてあるのだろう。
――いいことが書 () かれてある訳 () がないけど。
道 () 子 () の家 () には毎年 () お盆 () に、家 () 族 () で帰 () 省 () することになっている。祖父母 () に会 () うことよりも、同 () い年 () の道 () 子 () に会 () えるのが楽 () しみだった。
が、去年 () の夏 () 、事 () 件 () が起 () きた。
真奈 () を迎 () え入 () れたとき、祖母 () が言 () ったのだ。
「本当 () に女 () の子 () らしくなったねー。色 () が白 () くてほっそりして。道 () 子 () は色 () も黒 () いし、足 () もこんなにぶっとくて。本当 () にみっともない!」
祖母 () は道 () 子 () の太 () ももを、バチン、と叩 () いた。
大人 () たちは笑 () っていた。だけど、道 () 子 () の顔 () から血 () の気 () が引 () くのを、はっきりと見 () てしまった。
どうして大人 () は、無 () 神 () 経 () に子 () 供 () を傷 () つけるのだろう。
散 () 歩 () と言 () って家 () を飛 () び出 () た道 () 子 () を、真奈 () は放 () っておけず、走 () って追 () いかけた。
「みっちゃんは太 () ってないよ。私 () なんてガイコツって呼 () ばれてるよ」
想定外 () だったのは、道 () 子 () が、真奈 () の言 () 葉 () に激怒 () したことだった。
「うるさいなあ!真奈 () がうちに来 () たらいいことがないよ!」
そして道 () 子 () は言 () った。
――来年 () は来 () ないでよね!
なぜ道 () 子 () が怒 () ったのか分 () からなかった。励 () ましてあげたのに怒 () るなんておかしいとさえ思 () った。でも、最近 () 、ようやく分 () かった。
ウイルスの感染 () が拡大 () するのと同 () 時 () に、アマビエが流行 () り始 () めた。疫病退散 () のご利 () 益 () がある妖怪 () らしい。少 () しずつ噂 () は変化 () し「LINE () で友達 () から送 () って貰 () った画 () 像 () を待 () ち受 () けにしないとウイルスに感染 () する」という呪 () いになってしまった。
が、真奈 () は送 () って貰 () うことができなかった。キッズケータイで、LINE () が使 () えなかったから。別 () に画 () 像 () がないから感染 () するなんて思 () っていない。ただ、中学 () に入 () ってもキッズケータイを使 () っていることを「子 () 供 () っぽい」と笑 () われたことが嫌 () だった。そして、なによりも惨 () めだったのが、友達 () に「子 () 供 () っぽいところがいいんだよ」と庇 () われたことだった。
去年 () の夏 () は道 () 子 () と仲 () 直 () りをできないまま、東京 () に帰 () ることになり、今 () 年 () は帰 () 省 () しないと決 () まった。ウイルスを持 () って帰 () ってしまってはいけないと、大人 () たちの間 () で話 () し合 () いがあったらしい。
――私 () が帰 () ってこなくなって喜 () んでいるだろうな。
そう思 () っていたのに、手 () 紙 () が届 () いた。
何 () が書 () かれてあるのか怯 () えながら今日 () を待 () つのは辛 () かった。躊躇 () したけれど、封 () を開 () ける。
中 () からはビニール袋 () に包 () まれた手 () 作 () りのマスクが出 () てきた。
同封 () のカードに「ウイルスがついていたらいけないので、数日 () 待 () ってから使 () ってください。来年 () は帰 () って来 () てね!」と書 () かれてある。
真奈 () はマスクを見 () つめ、道 () 子 () になにを送 () ろうと考 () えた。
宮西真冬(みやにし・まふゆ)
1984年 () 山 () 口 () 県 () 生 () まれ。2017年 () に第 () 52回 () メフィスト賞 () 受 () 賞 () 作 () 『誰 () かが見 () ている』でデビュー。『首 () の鎖 () 』、『友 () 達 () 未 () 遂 () 』と生 () きづらさを抱 () えた人々 () を描 () いている。
【近刊】
「一
――なんで、みっちゃんから
ベッドに
――いいことが
が、
「
どうして
「みっちゃんは
「うるさいなあ!
そして
――
なぜ
ウイルスの
が、
――
そう
宮西真冬(みやにし・まふゆ)
1984
【近刊】
