〈７月１４日〉 かすがまる
文字数 2,418文字
ブレックファスト・ファンタジー・ファミリー
その朝 、みそ汁 の匂 いに誘 われてダイニングへ行 くと、俺 は母 と妹 が金髪 耳 長 のファンタジー人類 に変 わっているのを発見 した。
「なんで、にいにはエルフじゃないの？」
「それはねえ、お兄 ちゃんがお父 さん似 だからよ」
鼻先 にシャボン玉 ―――の中 になにかいた。おもちゃの人 形 みたいななにかが。わ、目 があった。手 を振 られた。流 れていった。うわ、何 個 も何 個 も浮 いている。蝶 も何 匹 も飛 んでいる。テレビの上 に並 んだ小 鳥 たちがピーチクパーチク……俺 、まだ寝 ているのか？ これ、夢 だよな？
「どうした。そんなところに突 っ立 って」
父 さん―――の声 で話 す鎧 が、二階 から降 りてきた。青 いマントが風 もないのにユラユラと揺 れる。白 い湯気 のようなものが、ライオンかなにかの顔 をして立 ち上 っている。
「おとしゃんカッコイイ。にいには？」
「制服 でいいさ。お父 さんも初 めは学生服 だったからな」
「なつかしいわねえ……あ、この子 の剣 はどうするの？」
「向 こうで用 意 させればいい」
エルフ母 は明 太 子 と煮 豆 で、エルフ妹 は味 のりと納豆 で、それぞれにご飯 がすすむ。鎧 男 は食 パンにイチゴジャムとピーナッツバターを左 右 半々 に塗 りたくり、合 わせるよう二つ折 りにして、さらには紅茶 へぶち込 んでから――この食 べ方 は父 さんだ――兜 の顔 の部 分 を押 し上 げ、ひと口 でペロリだ。
俺 、いつの間 にみそ汁 をすすり終 えていたんだろう。
「さあ、出 かけましょうか。お夕飯 までには戻 らないとね」
ブーツと網靴 と足 鎧 がスタスタガチャガチャと風呂場 へ向 かった。シャボン玉 がただよい出 してくるところへだ。
「あら、長靴 はやめておきなさい。結構 歩 くわよお」
洗濯 洗剤 の棚 から、母 さん、なにを取 り出 したの。なにその怪 しいボトル。わたしが作 りましたって写真 、おとぎ話 の魔 女 みたいな人 がリンゴを見 せびらかしているんだけど。
「……なんなの？ どういうこと？」
やっと言 えたというのに。
「もう。お母 さんの実家 に行 くって、さっき説明 したじゃないのお」
「エルフのおしろだって！ トロロもいるって！」
「トロールか。お父 さん、倒 したことあるぞ」
「ええ……ひどい……」
「えっ」
「あらあら。大 丈 夫 よお、かわいいドラゴンさんとも会 えるからね。名 前 は『尻尾 曲 がり』」
おでこになにかを塗 られ、浴槽 へ飛 び込 まされて――俺 は不思議 な世 界 へ渡 ったんだ。
あの、でっかい空 の下 の大冒険 を、いつか誰 かに伝 えたいと思 う。
……今朝 もみそ汁 の匂 いがする。
まさか、ね。
かすがまる
１９７９年 生 まれ。東京 都 出身 。大学 在学 中 に学 習 塾 を設立 し、数学 、国 語 、小 論文 を担当 する。ネット小 説 を読 み漁 るようになり、投稿 を開始 。「Ｍ Ｆ ブックス小 説 家 になろう大 賞 ２０１４」で優 秀 賞 を受 賞 し、２０１５年 に『火刑 戦旗 を掲 げよ！』 （Ｍ Ｆ ブックス）でデビュー。代 表 作 に『ゲーム実 況 による攻 略 と逆 襲 の異世界神戦記 』（講談社 ）。
【近刊 】
その
「なんで、にいにはエルフじゃないの？」
「それはねえ、お
「どうした。そんなところに
「おとしゃんカッコイイ。にいには？」
「
「なつかしいわねえ……あ、この
「
エルフ
「さあ、
ブーツと
「あら、
「……なんなの？ どういうこと？」
やっと
「もう。お
「エルフのおしろだって！ トロロもいるって！」
「トロールか。お
「ええ……ひどい……」
「えっ」
「あらあら。
おでこになにかを
あの、でっかい
……
まさか、ね。
かすがまる
１９７９
【
