〈7月28日〉 行成薫
文字数 2,539文字
三丁目 ヒーローズ
ダルいな、と横山 () が言 () い、ダルいな、と俺 () が返 () す。
何 () もすることのない夏 () 休 () み。俺 () は毎日 () 、中 () 学 () で同 () じクラスの横山 () の部屋 () で過 () ごしている。はじめは二人 () で宿 () 題 () やゲームなどしていたが、それにも飽 () きた。外 () は暑 () いし、部屋 () の中 () もそこそこ暑 () い。動 () く気 () にもならない。
「なあ、西川 () 」
「何 () だよ」
「暇 () だし、世 () 界 () を救 () うヒーローにならねえか」
横山 () がまた意味 () 不 () 明 () なことを言 () い出 () したので、俺 () は「はあ?」と首 () を傾 () げる。
「暑 () さで脳 () みそ溶 () けたのか」
「地 () 球 () が大変 () なことになってるじゃん」
「だからなんだよ」
「太陽 () に説 () 教 () くらわして、もうちょい涼 () しくさせるとかできるだろ」
「いや、できるかバカ。なんだ、太陽 () が俺 () たちに反省 () 文 () でも書 () いてくるのか。クソ暑 () くてすみません、とか」
「もう5℃ () くらい下 () げりゃ、みんな幸 () せになると思 () わないか?」
「横山 () が一 () 発 () ギャグでもやってくりゃいい。氷 () 点 () 下 () まで下 () がる」
横山 () は急 () に立 () ち上 () がると、窓 () を開 () け、外 () に向 () かって「落 () ち着 () け太陽 () ー!」などと叫 () び出 () した。俺 () は慌 () てて横山 () を引 () っ張 () り戻 () す。
「お前 () が落 () ち着 () け。情 () 緒 () 不 () 安 () 定 () か」
「いいか、俺 () は世 () 界 () 中 () の人 () を救 () うヒーローになりてえんだよ」
「心 () がけは立派 () だが、行動 () が伴 () ってねえ」
「だから、俺 () と漫才 () やろうぜ」
ほあ? という気 () の抜 () けた声 () が俺 () の口 () から漏 () れる。まさか、そんなお誘 () いを受 () けるとは夢 () にも思 () っていなかった。
「笑 () えば大概 () のことは我 () 慢 () できるし、くだらない人生 () だって幸 () せに感 () じるだろ。だから俺 () は、世 () 界 () を救 () う芸人 () という名 () のヒーローになる」
「海賊 () 王 () みたいに言 () うな。そんな簡単 () にいかねえぞ」
鼻 () で笑 () う俺 () を、横山 () が急 () に真面目 () な顔 () で見 () つめる。こんなに真剣 () な眼 () 差 () しを向 () けられるのは、幼 () 稚 () 園 () で出 () 会 () って十年 () 、初 () めてのことかもしれない。
「大 () 丈 () 夫 () だ西川 () 。俺 () たちは面白 () い」
横山 () があまりにも自 () 信 () 満々 () に言 () うので、俺 () はツッコむのを忘 () れて口 () を開 () けていた。でも、ダルいダルいと言 () っているよりはマシかもしれない、とも思 () っていた。
「明日 () から練 () 習 () しようぜ。コンビ名 () は、『三丁 () 目 () ヒーローズ』」
「ダサい、クソダサいって横山 () 」
「いやか?」
「いや、その、まあ、お遊 () びならやってもいいけど」
横山 () はにやりと笑 () うと、よし結成 () ! と言 () いながら、強引 () に俺 () と握 () 手 () した。部屋 () も暑 () いが、横山 () も暑 () 苦 () しい。ついでに、俺 () の胸 () の奥 () も、ちょっとだけ熱 () くなっていた。
「じゃあ、西川 () がボケで、俺 () がツッコミな」
お前 () がボケだろ、と、俺 () はさっそく横山 () の頭 () を引 () っぱたく。
行成薫(ゆきなり・かおる)
1979年 () 宮城 () 県 () 生 () まれ。東北 () 学院 () 大学 () 教 () 養 () 学 () 部 () 卒 () 業 () 。2012年 () に『名 () も無 () き世 () 界 () のエンドロール』で第 () 25回 () 小 () 説 () すばる新人 () 賞 () を受 () 賞 () しデビュー。他 () の著 () 作 () に『バイバイ・バディ』『ヒーローの選択 () 』『僕 () らだって扉 () くらい開 () けられる』『廃 () 園 () 日和 () 』『ストロング・スタイル』『怪盗 () インビジブル』『本日 () のメニューは。』『KILL () TASK () 』がある。
【近刊】
ダルいな、と
「なあ、
「
「
「
「
「だからなんだよ」
「
「いや、できるかバカ。なんだ、
「もう5
「
「お
「いいか、
「
「だから、
ほあ? という
「
「
「
「
「ダサい、クソダサいって
「いやか?」
「いや、その、まあ、お
「じゃあ、
お
行成薫(ゆきなり・かおる)
1979
【近刊】
