〈7月16日〉 小野寺史宜
文字数 2,252文字
マスクに自分 を守 () る効果 () はあんまりないらしい。
でも人 () にうつさないようにはできるみたいだから出 () かけるときはしなさいね、とお母 () さんが言 () うから、出 () かけるときはする。
家 () ではしない。お母 () さんもしない。家族 () だから、いい。家族 () でも、うつりはすると思 () うけど。
学校 () はもうずっとない。だから毎日 () 家 () にいる。
初 () めはうれしかった。今 () はそうでもない。始 () まっても夏 () 休 () みを短 () くされると聞 () いて、ゲゲッと思 () った。それはなしでしょ。真夏 () の小学校 () 。熱 () 地獄 () 。無理 () 。
ウィンウォーン、とインタホンのチャイムが鳴 () る。いい時間 () つぶし。受話器 () をとって、言 () う。
「はい」
「こんにちは。郵便 () 局 () です。書留 () が来 () てますので、ご印鑑 () をお願 () いします」
「あ、はい。今 () 出 () ます」
ご印鑑 () 。ハンコだ。
戸棚 () の引出 () しからそれをとり、玄関 () に向 () かう。あっと思 () う。マスクは?
インタホンのモニター画面 () に映 () る郵便 () 屋 () さんはマスクをしてた。まあ、そうだろう。スーパーやコンビニの店員 () さんなんかもみんなしてる。
でもぼくは、どうすればいい?
家 () にいるぼくがマスクをして出 () てきたら、郵便 () 屋 () さんはいやな気持 () ちになるんじゃないかな。うつされたくないからぼくがわざわざマスクをしてきたと思 () って。ただ、郵便 () 屋 () さんにうつさないようにできるなら、するべきだし。
迷 () ってる時間 () はない。早 () く出 () なきゃいけない。
ぼくは一応 () マスクをして、玄関 () に行 () く。そしてつけたままのマスクを左手 () で前 () に引 () っぱり、右手 () でドアを開 () ける。
外 () にいた郵便 () 屋 () さんに言 () う。思 () いきって、訊 () いてしまう。
「あの、どっちがいいですか?」
「はい?」
「えっと、マスク。したほうがいいですか? しないほうがいいですか?」
「あぁ」と言 () って、郵便 () 屋 () さんは笑顔 () になり、こう続 () ける。「して。長野 () くんに僕 () がうつしちゃったらよくないから」
ならばと左手 () をはなす。耳 () にかけたゴムが縮 () まり、マスクが鼻 () と口 () を覆 () う。ファサッと。
ついタメ口 () で言 () ってしまう。
「何 () で知 () ってるの? ぼくが長野 () だって」
「だって、ほら、郵便 () が来 () てるから。宛名 () が長野 () さんになってるし」
「あ、そうか」
ちょっと恥 () ずかしい。バカなの? と自分 () で思 () う。
うーん。
ただでさえ頭 () がよくないんだから、やっぱ学校 () には行 () かなきゃダメかも。熱 () 地獄 () 。耐 () えるしかない。友 () だちもいるし、まあ、いいか。
ハンコを捺 () して、お母 () さん宛 () の書留 () をもらう。
「気 () をつかってくれて、ありがとうね」
そう言 () って、郵便 () 屋 () さんは去 () っていく。
ナントカいう芸能 () 人 () に似 () てたな、と思 () う。
小野寺史宜(おのでら・ふみのり)
1968年 () 、千葉 () 県 () 生 () まれ。2006年 () 「裏 () へ走 () り蹴 () り込 () め」で第 () 八六回 () オール讀物 () 新人 () 賞 () を受賞 () 。2008年 () 、第 () 三回 () ポプラ社 () 小説 () 大賞 () 優秀 () 賞 () 受賞 () 作 () の『ROCKER』で単行本 () デビュー。他 () の著書 () に、『リカバリー』『ひりつく夜 () の音 () 』『太郎 () とさくら』『その愛 () の程度 () 』『近 () いはずの人』『それ自体 () が奇跡 () 』『縁 () 』『ひと』『ライフ』『まち』『今日 () も町 () の隅 () で』「みつばの郵便 () 屋 () さん」シリーズなどがある。最新 () 作 () は、『食 () っちゃ寝 () て書 () いて』。
【近刊 () 】
でも
ウィンウォーン、とインタホンのチャイムが
「はい」
「こんにちは。
「あ、はい。
ご
インタホンのモニター
でもぼくは、どうすればいい?
ぼくは
「あの、どっちがいいですか?」
「はい?」
「えっと、マスク。したほうがいいですか? しないほうがいいですか?」
「あぁ」と
ならばと
ついタメ
「
「だって、ほら、
「あ、そうか」
ちょっと
うーん。
ただでさえ
ハンコを
「
そう
ナントカいう
小野寺史宜(おのでら・ふみのり)
1968
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