「犬」/林芙美子(『犬』クラフト・エヴィング商會 所収)
文字数 1,744文字
同業のパートナー、喜国雅彦さんとの共著『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』で第17回本格ミステリ大賞受賞をしている国樹さんが、「犬の出てくる面白い本」をネタバレなしで紹介してくださいます!
大好評連載の第57回目は、林芙美子さんの「犬」(『犬』/クラフト・エヴィング商會 所収)です!
以前こちらで『文豪たちが書いた「犬」の名作短編集』(彩図社)という本を紹介したことがあります。
その際はめくるめく文豪たちの作品群の中から、夢野久作の短編を選びました。今でもとても好きなお話です。
さて今回取り上げたのは、同じようなコンセプトで編まれた本だったりします。短編集、それも1人でなく様々な作家による作品集には、アラカルト料理的な美味しさがあると感じました。
忙しくて本を読む時間が作れない方々にもおすすめ出来る1冊は、クラフト・エヴィング商會プレゼンツの『犬』(中公文庫)。隙間時間に1話ずつ読めば、きっととても楽しいはず。
とはいえ『文豪たちが書いた「犬」の名作短編集』と同じく、犬好きにとっての地雷作品も含まれていますから、そこは少しの覚悟が必要です。
この本は平成21年の再発行版であり、最初に発行されたのは昭和29年。日本において、犬と人間の関わりがシビアだった頃です。現代のように「犬は大切な家族の一員」という考え方ではありません。飼い犬なのか野良犬なのかはっきりしない犬、冷たくあしらわれている犬、凶暴な犬等々、犬好きならば胸痛めてしまう犬たちが沢山出てきます。
それでも味わい深い筆致で「読ませて」くれる当時の犬事情。特に私が心惹かれたのは旧仮名遣いの作品でした。
というわけで選んだのは『放浪記』で名高い林芙美子作の「犬」。実にストレートなタイトルです。
「私は石段に腰を掛けて長い間此犬の奴と子供のやうな話をする。
私「御飯たべたのかい?」
犬「食べたよ」
私「何をして遊んでたの?」
犬「畳屋さんと遊んだよ」
犬も私も対話が出来るのだ。」
愛おしすぎるやりとりに微笑んでしまいます。文豪の林芙美子が、まさか私と同じようなことをしていたなんて。こんなふうに、愛犬「ペット」(なんという名付けセンス)との他愛ない日々が淡々とつづられています。
ペットが数日間行方不明になるくだりがあるのですが、
「心配してゐると、首に固く針金を巻かれて帰つて来た。(中略)赤犬なので誰かしめ殺して食べるつもりだつたのだらう。」
その想像と冷静な分析にただただびっくりしましたが、それでもペットは愛されていたし、犬と人間が幸せに暮らす世界だって確かに存在していたのです。
「こんな時代から、私たちはずいぶん遠くまで歩いてきたんだな。犬と一緒に」と、安全な室内で眠るうちの犬を撫でながら思う、静かな夏の夕暮れでした。
漫画描き。近年はエッセイも手がけている。ミステリとメタルと空手と犬が大好き。代表作に『こたくんとおひるね』『しばちゃん。』『犬と一緒に乗る舟』など。講談社文庫では、共著の『メフィストの漫画』などがある。2021年、極真空手参段に昇段。メタルDJもこなす。2017年に『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』(喜国 雅彦と共著)で第17回本格ミステリ大賞受賞。
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茶色のMIX犬/10歳/自由に生きるおてんば姫