『ある犬の飼い主の一日』/サンダー・コラールト
文字数 2,006文字
イラスト/国樹由香
保護犬と暮らす、漫画家の国樹由香さんが、そのあふれんばかりのわんこ愛をそそぎ、紡いでくださる大好評連載「いつも犬(きみ)がいた」。
同業のパートナー、喜国雅彦さんとの共著『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』で第17回本格ミステリ大賞受賞をしている国樹さんが、「犬の出てくる面白い本」をネタバレなしで紹介してくださいます!
大好評連載の第58回目は、サンダー・コラールトの『ある犬の飼い主の一日』です!
まさに今、ちまたの犬好きたちを虜にしている犬といえば「デコピン」ですよね。そう、ドジャース大谷翔平選手と暮らす愛犬の名前です。野球に興味がなくても、その名を耳にした人は多いでしょう。
デコピンくんは最初「大谷選手の犬だから」有名でした。当然見た目の可愛さも注目されていたけれど、犬でありながら始球式をするという大役を成功させて以来「大谷選手と並ぶほど有能なデコピンくん」として、更なる人気を獲得したのです。
犬種はコーイケルホンディエ。こちらもまた大谷選手が選ばなければ、ほとんどの日本人は知らなかった犬種だというのは間違いありません。正直かなりの犬マニアを自称している国樹も、初めて知った種類でした。
今回取り上げる本は、なんとコーイケルホンディエが出てくる物語。オランダの作家、サンダー・コラールト作『ある犬の飼い主の一日』(新潮クレスト・ブックス)です。
表紙に大きく犬の絵が。独身中年男性ヘンクの愛犬「スフルク」です。意味は「ならず者」とのこと。
舞台はアムステルダム。読書家のベテラン看護師であるヘンクは、突飛なキャラクターではありません。仕事仲間や兄弟との人間関係に悩んだり、老犬であるスフルクの健康を気遣ったりしつつ暮らす平凡な男性です。ヘンクも56歳ですから、老犬とはいいコンビと言えるでしょう。
離婚歴があるヘンクの何気ない1日を切り取った物語なので、展開は淡々としています。でも面白く読み進められてしまうのは、彼の思考にとても共感出来るから。
読書家ゆえでしょうか。ヘンクはとりとめのないことをぐるぐる考える傾向があります。
「たったいま大災害が起こり、まだここには至っていないが、次の瞬間には見舞われる、ということもありうるーーヘンクはそう考えてみる。次の瞬間には、たとえば核爆発の衝撃波が、町を一掃してしまうかも、と。家々は蒸発するだろう。ヘンクも。家でかごの中で眠るスフルクも蒸発するのだ。」
こんなことを晴れた土曜の朝に考えているのです。更にあれこれ思いを巡らし最終的な着地は
「いまただちに憂慮する必要はない。」
思わず笑ってしまいましたが、あまりにあるある。私だって幾度考えたことか。
もちろん人生色々ですので、平凡な日に潜むちょっとしたきらめきが描かれているのも嬉しい点。特に老いたスフルクに絡む様々なエピソードは、せつなくも終始愛情に溢れています。
生後8週間で家族に迎えたときから「人の心を動かす、生き生きとした子犬」だったスフルク。元妻ともスフルクについてなら、電話でいつまででも話せるのです。
新しい恋の予感もスフルクきっかけ。私たちはそんなヘンクを応援せずにはいられなくなるのでした。
大胆なエロティック描写も出てきますが、人生讃歌だと思えました。ヘンクの本についてのうんちくも面白いです。
冒頭の1行とラストの1行が見事に繋がっているのが美しく。翻訳小説ならではの味わいをどうぞ。
デコピンくんは最初「大谷選手の犬だから」有名でした。当然見た目の可愛さも注目されていたけれど、犬でありながら始球式をするという大役を成功させて以来「大谷選手と並ぶほど有能なデコピンくん」として、更なる人気を獲得したのです。
犬種はコーイケルホンディエ。こちらもまた大谷選手が選ばなければ、ほとんどの日本人は知らなかった犬種だというのは間違いありません。正直かなりの犬マニアを自称している国樹も、初めて知った種類でした。
今回取り上げる本は、なんとコーイケルホンディエが出てくる物語。オランダの作家、サンダー・コラールト作『ある犬の飼い主の一日』(新潮クレスト・ブックス)です。
表紙に大きく犬の絵が。独身中年男性ヘンクの愛犬「スフルク」です。意味は「ならず者」とのこと。
舞台はアムステルダム。読書家のベテラン看護師であるヘンクは、突飛なキャラクターではありません。仕事仲間や兄弟との人間関係に悩んだり、老犬であるスフルクの健康を気遣ったりしつつ暮らす平凡な男性です。ヘンクも56歳ですから、老犬とはいいコンビと言えるでしょう。
離婚歴があるヘンクの何気ない1日を切り取った物語なので、展開は淡々としています。でも面白く読み進められてしまうのは、彼の思考にとても共感出来るから。
読書家ゆえでしょうか。ヘンクはとりとめのないことをぐるぐる考える傾向があります。
「たったいま大災害が起こり、まだここには至っていないが、次の瞬間には見舞われる、ということもありうるーーヘンクはそう考えてみる。次の瞬間には、たとえば核爆発の衝撃波が、町を一掃してしまうかも、と。家々は蒸発するだろう。ヘンクも。家でかごの中で眠るスフルクも蒸発するのだ。」
こんなことを晴れた土曜の朝に考えているのです。更にあれこれ思いを巡らし最終的な着地は
「いまただちに憂慮する必要はない。」
思わず笑ってしまいましたが、あまりにあるある。私だって幾度考えたことか。
もちろん人生色々ですので、平凡な日に潜むちょっとしたきらめきが描かれているのも嬉しい点。特に老いたスフルクに絡む様々なエピソードは、せつなくも終始愛情に溢れています。
生後8週間で家族に迎えたときから「人の心を動かす、生き生きとした子犬」だったスフルク。元妻ともスフルクについてなら、電話でいつまででも話せるのです。
新しい恋の予感もスフルクきっかけ。私たちはそんなヘンクを応援せずにはいられなくなるのでした。
大胆なエロティック描写も出てきますが、人生讃歌だと思えました。ヘンクの本についてのうんちくも面白いです。
冒頭の1行とラストの1行が見事に繋がっているのが美しく。翻訳小説ならではの味わいをどうぞ。
イラスト/国樹由香
漫画描き。近年はエッセイも手がけている。ミステリとメタルと空手と犬が大好き。代表作に『こたくんとおひるね』『しばちゃん。』『犬と一緒に乗る舟』など。講談社文庫では、共著の『メフィストの漫画』などがある。2021年、極真空手参段に昇段。メタルDJもこなす。2017年に『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』(喜国 雅彦と共著)で第17回本格ミステリ大賞受賞。
公式X(旧ツイッター)→https://twitter.com/kunikikuni
公式インスタグラム→https://www.instagram.com/kunikikuni/
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国樹さんちの柑奈ちゃん、犬だけでなく猫さんからもモテモテなんです!
犬散歩のとき、かなりの確率で遭遇する黒猫ちゃん。我が家の柑奈ちゃんのことを気に入っているのか、お腹を上にして待ちぶせています。臆病なうちの娘さんは「なに? このこだれ?」と、しっぽを下げまくっていますが(国樹)
柑奈(かんな)
茶色のMIX犬/10歳/自由に生きるおてんば姫
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