『猟奇の贄 県警特殊情報管理室・桜庭有彩』/牧野修

文字数 1,825文字

イラスト/国樹由香
保護犬と暮らす、漫画家の国樹由香さんが、そのあふれんばかりのわんこ愛をそそぎ、紡いでくださる大好評連載「いつも犬(きみ)がいた」

同業のパートナー、喜国雅彦さんとの共著『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』第17回本格ミステリ大賞受賞をしている国樹さんが、「犬の出てくる面白い本」をネタバレなしで紹介してくださいます!

大好評連載の第55回目は、牧野修さん『猟奇の贄 県警特殊情報管理室・桜庭有彩』です!

 暑い。信じられないくらい暑いです。日本の夏って、こんなに暑いものでしたっけ? 脳が沸騰しそうな熱波、恐ろしすぎます。


 海やプールもいいけれど、こんなときは涼しい部屋でゾクゾクする話を読むのが最適解かと。

 というわけで、国樹が灼熱の夏におすすめしたい1冊がこちら。牧野修さん作『猟奇の贄 県警特殊情報管理室・桜庭有彩』 (メディアワークス文庫)です。


 主人公である桜庭有彩(さくらばありあ)は、棟石(むないし)署特殊情報管理室に配属されたばかりの27歳。棟石は日本一凶悪犯罪が多い街とのこと。「この世から悪を、不正をすべて消したい。」と願う彼女は、周囲が引くほどのやる気に満ちています。

 

 特殊情報管理室では一癖も二癖もあるメンバーが少数先鋭で活動しています。一見冴えない中年男なれど元公安の猛者という瀬馬(せばき)室長。長身で細身で猫背で眼鏡の情報処理担当である伊野部(いのべ)巡査。そして、


「そこに豪奢な花束が置かれているのかと思った。(中略)彼は、啞然とするほどの美貌の持ち主だった。あまりの美しさに、桜庭は何か不健康で反倫理的なものすら感じていた。」


 本庁の刑事課にいたという美しすぎる柿崎(かきざき)警部補。優秀な刑事だけれど、毒のある生き物が好きという変わり者。

 既に役者が揃った感ですが、真打ちがいました。


「そこには大きなケージが置かれてあり、その中に真っ黒な犬がいた。狼に似た精悍な顔つきをしている。にもかかわらず、気が弱いのか、ケージの奥にうずくまって桜庭から顔を逸らしている。」


 最後のメンバーは甲斐犬まじりの雑種ブンタ。シニガミという綽名(あだな)を持つブンタには「死を嗅ぎ取る能力」があるため、引退した警察犬の身でありながら、特殊情報管理室の一員なのでした。


 こんな4人と1匹が追いかける事件の恐ろしいこと。首切断あり、カニバリズムあり、凶悪なカルト集団あり、拷問ショーあり。

 

 有彩には特別な能力がありました。人間同士の関係性が「糸」で見える超自然的能力です。不可解な事件に関わる人たちに糸はつきもの。その糸を辿った先には何が?

 幼い頃に巻き込まれた猟奇事件のせいで深刻なPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しめられつつも、有彩は果敢に悪に立ち向かうのです。糸と、ブンタの力を借りながら。


 美警官と主人公のバディぶりがよく、残酷表現のオンパレードも乗り越えられます。

 牧野修さんは和犬がお好きと言われているだけあって、ゴッサム・シティばりに悪がはびこる街でもブンタは無事なのが嬉しい。


 こんなにも残虐非道でありながら、読後感が爽やかなのが不思議です。是非。

イラスト/国樹由香

国樹 由香(クニキ ユカ)

漫画描き。近年はエッセイも手がけている。ミステリとメタルと空手と犬が大好き。代表作に『こたくんとおひるね』『しばちゃん。』『犬と一緒に乗る舟』など。講談社文庫では、共著のメフィストの漫画』などがある。2021年、極真空手参段に昇段。メタルDJもこなす。2017年に『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』(喜国 雅彦と共著)で第17回本格ミステリ大賞受賞。


公式X(旧ツイッター)→https://twitter.com/kunikikuni
公式インスタグラム→https://www.instagram.com/kunikikuni/


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