霊視と数学奇跡の共演/『心霊探偵八雲 INITIAL FILE 幽霊の定理』

文字数 1,330文字

どんな本を読もうかな――。

そんな悩みにお答えすべく、「ミステリー」「青春・恋愛小説」「時代小説」「エッセイ・ノンフィクション」のジャンル別に、月替わりで8名の選者が「今読むべきこの1冊」をオススメ!


今回は青戸しのさんがとっておきのミステリーをご紹介!

青戸しのさんが今回おススメするミステリーは――

神永学著『心霊探偵八雲 INITIAL FILE 幽霊の定理』

です!

 幽霊の存在を信じていない。正確には認めたくない。第一の理由は単純に怖いからだ。子供の頃に観たテレビ番組の影響か、あれらは人に害をなすというイメージが強く根付いている。


 二つ目に、私はホラーよりミステリ作品を好むからだ。この二つはどうにも相性が悪い。幽霊や霊視能力は、謎解きの答え、もしくは大きなヒントになりうる。


 最後の理由は、「幽霊は居ない」と言い切れないことだ。不確かなものは、時に生きている人間を混乱させる。


『心霊探偵八雲 INITIAL FILE 幽霊の定理』は霊が見える大学生・八雲と、数学の天才である准教授・御子柴がタッグを組んで謎を解き明かすミステリ小説である。彼らは「心霊探偵八雲」シリーズと、「確率捜査官 御子柴岳人」シリーズの主人公であり、最強タッグであることは間違いないのだが、どちらか一人だけでも小説が成り立つほどの個性を持っている為、かなりの頻度で小競り合いが起きる。名探偵とは十中八九面倒な性格をしているし、ミステリ好きはその面倒臭さが好きだったりもする。


 霊視と数学、専門分野が違えば、当然、事件解決までの道筋も分かれてくる。感情に寄り添った八雲と、確率に重きを置く御子柴の謎解きは対照的で、改めて彼らを生み出したのが同じ作者である事実に感動する。


 冒頭で霊視能力は謎解きの答え、もしくは大きなヒントになると言ったが、数学と比べると一転して不確かな能力にも思える。しかし数学的な解決だけでは死者や事件関係者の隠れた意図を全て汲み取ることは難しい。だからこそ、この二人が同じ結論にたどり着いた時、安心してその結末を見届けられる。完全犯罪ならぬ完全推理を目の当たりにして、粗探しや反論など出るはずもない。


 彼らが組んだスピンオフ作品はこれで二作目になるが、前作と同じく三つの事件が描かれている。幽霊が出るマンション、女子寮のポルターガイスト現象、教授宅のひとりでに鳴るピアノ。どれも心霊現象の絡んだ魅力的な事件であることに変わりはないが、一作目に比べてシリーズ本編との関連度が高くなっている為、もう一度各々の作品を読み返したくなる。


「その時、ぼくはまだ彼女を知らなかった──」


 本書冒頭の一文の真相は三章で匂わされる。本作は彼らの物語の序章だ。本編を知っている読者にとって、あまりにも贅沢で感慨深い作品であると同時に、「心霊探偵八雲」シリーズと、「確率捜査官 御子柴岳人」シリーズの新たな読者に繫がる一冊になると強く確信している。

この書評は「小説現代」2023年7月号に掲載されました。

青戸しの(あおと・しの)

モデルや女優を中心に多方面で活躍中。MVに出演し、ヒロイン役を務めるなど活動の幅を広げている。インスタグラム/ Twitter (@aotoshino_02)

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