ミステリ作家が挑む 国境を越える歴史劇!/『南蛮の絆 多聞と龍之進』

文字数 1,278文字

どんな本を読もうかな――。

そんな悩みにお答えすべく、「ミステリー」「青春・恋愛小説」「時代小説」「エッセイ・ノンフィクション」のジャンル別に、月替わりで8名の選者が「今読むべきこの1冊」をオススメ!


今回は田口幹人さんがとっておきの時代小説をご紹介!

田口幹人さんが今回おススメする時代小説は――

大村友貴美著『南蛮の絆 多聞と龍之進』

です!

ミステリ作家・大村友貴美がついに初となる本格歴史時代小説『南蛮の絆 多聞と龍之進』(双葉社)を上梓した。


西洋史オタクの村主周一郎准教授を主人公に据えた連作ミステリ『奇妙な遺産 村主准教授のミステリアスな講座』、現代に起こった殺人事件と岩手の山奥に二百五十年以上守られた秘文の謎を絡めたミステリ『梟首の遺宝』、明治時代の山間集落で起きた猟奇的殺人を描いた『緋い川』など、世界史や日本史の事件や時代を題材にした作品を発表しており、いつか本格歴史時代小説を書いてくれないかと心待ちにしていたのだ。


今まさに天下分け目の戦いが繰り広げられている一六〇〇年の関ケ原。近くの村で生まれた龍之進と多聞という幼馴染の二人の少年は、抗う術もなく戦いに巻き込まれてゆく。地獄絵図さながらの戦場で、共に父親の死を知り、途方に暮れるさなか、人さらいにあい離れ離れとなり、全く違う道を歩むことになるのだった。


まず長崎のポルトガル商人マヌエル・カルバジャルに引き取られた龍之進は、マヌエルの元で暮らす同い年の松田沙羅とともに、語学から算術、太陽と月や星の動き、さらには人体構造と医学といった学問を授けられる。そんな中、マヌエルにある嫌疑が持ち上がり、束の間の穏やかな暮らしが奪われてしまう。この長崎での日々と出来事が、のちに龍王という二つ名で広く知られるようになる、マカオを拠点に各国を相手にした交易商にまでのし上がっていく礎となっていく。


一方の多聞は、さらわれた後、売られるために連れていかれた京都でパードレ(宣教師)に助けられキリスト教徒となっていた。昔から学問が好きな多聞は、小神学校に通い、日本語の読み書きの他、南蛮語やキリスト教の教えを学び、自身を救ってくれた人と同じパードレになるという想いを募らせていた。


離れていても互いを想う二人が長崎で再会した直後、嫌疑が晴れずインドのゴアにある異端審問所に送られるマヌエルや沙羅らを追い、龍之進も大海原に漕ぎ出すあたりから物語が一気に、ダイナミックに動き出す。


はじめは龍之進と多聞の互いの友への想い、そして龍之進と沙羅という友情を越えた絆の物語だと思いきや、ポルトガル人や中国人、そしてオランダ人によるアジア海域での覇権争いに巻き込まれ、それぞれの人生を変えていく。そして、日本の歴史上最大規模の一揆へと繫がっていくラストまでページをめくる手を止めることができなかった。

この書評は「小説現代」2022年8月号に掲載されました。

田口幹人(たぐち・みきと)

1973年生まれ。書店人。楽天ブックスネットワークに勤務。著書に『まちの本屋 知を編み、血を継ぎ、地を耕す』『もういちど、本屋へようこそ』がある。

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