市民探偵が事件解決⁉/『未解決殺人クラブ 市民探偵たちの執念と正義の実録集』

文字数 1,269文字

どんな本を読もうかな――。

そんな悩みにお答えすべく、「ミステリー」「青春・恋愛小説」「時代小説」「エッセイ・ノンフィクション」のジャンル別に、月替わりで8名の選者が「今読むべきこの1冊」をオススメ!


今回は高橋ユキさんがとっておきのエッセイ・ノンフィクションをご紹介!

高橋ユキさんが今回おススメするエッセイ・ノンフィクションは――

ニコラ・ストウ著『未解決殺人クラブ 市民探偵たちの執念と正義の実録集』

です!

 治安が良いと言われる日本でも殺人事件は日々発生し、中には未解決となっているものもある。その捜査は警察が行うものであるという認識が我々の中にはあるが、アメリカではそうではないようだ。


 本書『未解決殺人クラブ』は、殺人事件解決の手がかりや、遺体の身元を突き止めようと奮闘する「市民探偵」らにフォーカスしている。一冊まるまる、ひとつの事件について書かれた長編ではなく、複数の事件で市民探偵がそれぞれいかなる役割を果たしたかが記されており、途中の章からも読める。一章読むのに時間はかからず、タイムパフォーマンス重視の現代人にぴったり。ネットフリックスのドキュメンタリー『猫イジメに断固NO!:虐待動画の犯人を追え』など映像化された事件も収録されており、動画は観ていないが話題にはついていきたい、という人も書店で手に取りやすい。殺人事件を取り扱ったノンフィクションは敬遠されがちだが、本書は〝サッと読んで、皆と話題を共有したい〟という今っぽいニーズに応えている。


 加えて今っぽいのは、「未解決」が未解決で終わらないところだ。市民探偵が真相究明を行ったことで捜査が進展するという展開を見せるため、読者もカタルシスを得られる。先述『猫イジメに~』の章、容疑者確保に至る冒頭部分は、まるで映画を観ているかのようにドラマチックである。


 肝心の本編については、例えば第三章で市民探偵のエレンが、「DOEネットワーク」のWebサイトに掲載された身元不明の遺体情報から、いくつもの行方不明者ウェブサイトを検索し、身元を特定する。「DOEネットワーク」自体も、第二章に登場する世界初のサイバー探偵、トッドが仲間と1999年に設立したのだという。さらに彼はビジュアル・アーティストという職を活かして似顔絵を描き、解剖時に撮影された写真や頭蓋骨を元に、身元不明被害者の顔を粘土で復元する取り組みを行っている。そのために刑事から頭蓋骨の提供を受けたりもする。「黄金州の殺人鬼」の容疑者確定の決め手は、商用データベースを使ったDNAプロファイリングだった(第五、六章)。


 とはいえ誰しも間違えることがある。最終章では2013年に発生したボストンマラソン爆発事件において、FBIがメディアを通じ市民に協力を仰いだところ、怒れる市民探偵らにより全くの別人が犯人として名指しされたという悲劇を紹介している。こうした犯人探しにおける間違いは日本でもSNS上で起きている。市民探偵には何よりも冷静さが求められるのだろう。

この書評は「小説現代」2024年3月号に掲載されました。

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