現役オーナーが語るコンビニの裏側/『コンビニオーナーぎりぎり日記』

文字数 1,446文字

どんな本を読もうかな――。

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今回は高橋ユキさんがとっておきのエッセイ・ノンフィクションをご紹介!

高橋ユキさんが今回おススメするエッセイ・ノンフィクションは――

仁科充乃『コンビニオーナーぎりぎり日記』

です!

 仕事帰りにアイスを買いに、出先で昼食を買いに。我々は何かとコンビニに世話になっている。日本各地どこにでもあり、同じような品が揃う。24時間365日開いていて、いつでも客を迎えてくれる。

 

著者はコンビニ大手3社のうちの1社「ファミリーハート」(仮称)とフランチャイズ契約を結ぶ某店舗の現役オーナー。いまも夫とともに店を切り盛りしている。ゆえに著者の実名や店舗の詳しい場所は伏せられている。本書の面白さは、大手コンビニの実態をオーナーがつまびらかにしている、というところだけではない。生活の中に当たり前に存在し、知った気になっていたはずのコンビニについて、意外と知らないことだらけだったという驚きが得られるところにもある。


 身近なところから言えば、コンビニにはペットボトル用のゴミ箱があるが、〈回収車は、キャップがついていると持っていってくれないので、店側でボトルのキャップを外す作業をしなければならない〉。中身が入っていたら、それを捨てる作業も発生する。夏場に炭酸飲料の飲み残しを捨てるのは特に大変だ。昨今のコンビニは、客として見ているだけでも、チケットの発券や宅配便の受付など、業務が多岐にわたる印象を受けるのに、そんな仕事まであるなんて! とまず驚く。


 しかし最も驚くのはフランチャイズ契約におけるコンビニ本部側の取り分だった。著者は1990年代中ごろ、夫に提案される形で一緒にコンビニオーナーの道へと進んだ。ファミリーハートのフランチャイズの契約形態は大きく「1FC」「2FC」がある。前者は土地も店舗も自前で用意し、後者は土地と店をファミリーハートから借りて運営する。著者夫妻は当時「2FC」だった。〈本部に支払うロイヤリティーは「1FC」が36~49%だったのに対し、「2FC」は65~70%だったと記憶している〉というように、2FCオーナーの取り分は格段に低くなる。著者も当初は〈本部の取り分が大きく阿漕すぎると不満に思った〉という。


 著者の店舗は2期目の契約更新後に〈光熱費や人件費を差し引いた利益は月90万円ほど〉と、安定した利益をあげていた。しかしコンビニは知っての通り24時間営業。オーナーも店頭に立ち、文字通り、休む間もなくフル稼働。しかもコンビニ本部は欠品を嫌うため〈発注を強制され、売れる見込みもないのに大量に仕入れさせられたうえ、「廃棄ロス」の負担を負わされる〉。そのうえ〈長く長く私たちを悩ませるカスハラ〉にも対応。その現状に“本部は阿漕すぎるのでは?”と著者と同じことを思わずにいられない。

 レジで店員にぞんざいな態度を取る客を見かけることもあるが、本書を読めばそんな気には一生なれないはずだ。

この書評は「小説現代」2023年10月号に掲載されました。


高橋ユキ(たかはし・ゆき)

1974年生まれ。女性の裁判傍聴グループ「霞っ子クラブ」を結成(現在は解散)。『あなたが猟奇殺人犯を裁く日』などを出版。著書に『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』『暴走老人・犯罪劇場』『つけびの村』『逃げるが勝ち』。

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