第33回

文字数 2,668文字

「北風と共に勢いが増しているコロナの感染状況は、

“第三波”との報道もあり、またまたひきこもり圧が高まりそうな日本列島。


街にイルミネーションが灯ろうと、気が早いクリスマスソングが流れようと、

トレンドは間違いなく“ひきこもり”!


脳内とネットでは饒舌な「ひきこもり」の代弁者・カレー沢薫がお届けする、

困難な時代のサバイブ術!」

ひきこもりというのは物理的に家に閉じこもっている様を指すのではない、社会の輪から外れて孤立している状態のことを指す。

もはや、働いてないとか学校に行っていないとかさえ関係なく、中退だろうが無職だろうがもちまえの後輩力と「マジっすか」「ヤベエ」という二つの語彙だけで、社会と深くコネクトしてしまっている人間もたまにいる。


ただし、日本社会は何もしていない人間に冷たいため、学校や会社を辞めた人間は冷たくされないようにひきこもらざるを得ないという側面もある。

つまり「呼吸」をもっと評価し、「仕事」「学業」「家事」などと同等に扱えば、日本からひきこもりは減ると思う。

呼吸だったら、寝ている間に息が止まっている時間を除けば、ほぼ24時間一日も休まずやっている。

一日8時間、週休二日どころではない激務をこなしていることになり、働いてないのが恥ずかしいからひきこもろう、などという発想にはならないはずである。


ともかく、どんな状況になっても己も他人も必要以上に責めないというのが、世の中からひきこもりを減らすことにつながるのではないだろうか。


しかし、そういう私も社会とのコネクトは、陰毛の細くなっている部分ぐらい心もとなくなってきている。

私自身も「家に閉じこもっていたって楽しくないだろう」とか、「お日様は天然の美容液だよ!」などと言われたら余計閉じるが、「このまま社会との繋がりが切れるのは危険ですよ」と言われたら頷かざるを得ない。


しかし、社会に出るとストレスを感じてしまうため、ついつい部屋の中という易きに逃れがちである。

何故社会がストレスかというと、まず「服を着なければいけない」というのが大きい。

服など所詮拘束具に過ぎないのに、何故か拘束具をつけずに外にでると、国家権力に拘束されるという謎ルールが社会には存在するのだ。

服だけではなく、法律というのは自宅内だと若干緩くなる。家の中でも人を殺したら罪になるが、児童のものでなければどれだけわいせつ物を陳列しても罪にならない。


私は裸族ではないので家の中でも服を着ているが、己の楽を追求した結果、上はセーター、下はパンイチにポソン(注:韓国発の内側がボアになった冷え防止靴下)というファッションモンスターが爆誕してしまった。

この格好で外に出ても、法律には反さないかもしれないが、世間の目は許さないだろう。たとえ法に触れてなくても、社会からヤバい奴認定されると、もうそこにはいられず、結果的に家に閉じこもるしかなくなってしまう。

そうやって生まれたひきこもりは9割孤独死し、1割ほどがジョーカーか八つ墓村のコスプレで社会に戻ってくるのだが、どちらにしても社会問題である。

異物とみなしたものを迫害や無視で排除しても問題は解決せず、新たな問題を生むだけなのだ。


つまり社会というのは、異物とみなされないように「ちゃんとしなければいけない」ので、元々がちゃんとしていない、良く言えば個性的なタイプは、人の目があるところに行くだけでストレスを感じるし、「社会の一員」としてのコスプレに失敗して森に帰るしかなくなってしまう場合も多い。


よって、ちゃんとしていないタイプは、せめて見た目だけでも、大学のキャンパスにいるモブキャラみたいにしておくべきである。

見た目で「無害」と思わせるだけでも大分社会で生きやすくなるのだが、何せちゃんとしていないので、深夜に家から10メートルのゴミ捨て場に行くことしか許されない格好でコンビニまで遠征してしまい、いつの間にか近所のアレな人認定されているケースもある。


人は見た目ではないと言っても、社会性の中には確実に「身だしなみ」も入っているので、ひきこもりになりたくなければまずその点を気を付けた方が良い。

ちなみにひきこもりになると「外に出て良い格好」の基準がわからなくなり、ますます異物度が増すという悪循環が起こる。


見た目を無害にしたら次は言動だが、人間関係のトラブリューというのは何が原因で起こるかわからない。昨日の友が、今日逆カプのイラストを描いているというのは良くあることで一概にはこうすれば良いとは言えないが、私の場合は協調性がないので集団行動を乱しがちだし、空気が読めず破天荒なことを言って引かれるというパターンが多い。


協調性のなさに関してはいかんともしがたく、集団行動している時に目についた蝶々を追いかけないように、足に鉄球をつけるとか、水に浸かって極限まで体力を落としてから参加するとか以外思いつかないのだが、そういうタイプは「長縄跳び」など、他人との協調が不可欠な職業にはつかず、できるだけ個人型の仕事に就いた方が、社会に長くとどまることができる。


空気が読めない発言については、空気が読めない人間が読めるようになるということはあまりないので、まずは「口数」自体を減らすのが一番手っ取り早いといわれている。

喋らないのもマイナスだが、失言をして大きなマイナスを出すぐらいなら、無口で無害と思われていた方がマシということである。


私はこの方法を採用し「何時に○○さんに必ず電話してください」という、言わなければいけないことすら言わずに、職場でマイナス五兆点をたたき出すことに成功した。


どうすれば、社会の中で人に迷惑をかけず、目立たず、植物のように生きていけるのか、吉良吉影の目指した生活は、殺人衝動がなくても割と実現が難しいと今更ながらに思い知らされる。

★次回更新は12月18日(金)です

カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中&第1巻発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中

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