第44回

文字数 2,386文字

あったかくなってきた! 春のうららかな陽光にもマケズ、ひきこもりを続けるぞ。


どんな季節も自室に籠城、

インターネットが私たちの庭なんです。


脳内とネットでは饒舌な「ひきこもり」の代弁者・カレー沢薫がお届けする、

困難な時代のサバイブ術!

前回から「Clubhouse」という「会話」に特化したSNSが、コロナにより会話に飢えている人たちを中心に広がっているという話をしている。


このことにより、「会話ができないことにストレスを感じる人」がいるということが判明した。


当たり前だろうと思う人もいるだろうが、私にとっては「会話がないと病む人」というのは、「エグザイルファン」のようにたくさんいるのはわかっているが、肉眼では見たことない人たちであった。


それが「Clubhouse」の登場により、「これや!」と京極さんのように涙を流す人たちを見て「チューチュートレインは本当にあったんだ」という気持ちになっている。


ひきこもりになる原因は、「道行く人たち全員いのちの輝き君に見えるようになってしまった」という沙耶の唄状態になってしまったからという人も多いと思うが、同じぐらい多い原因が「人間関係」な気がする。


つまり、ひきこもりになる人間は人とのコミュニケーションを避けるためにひきこもりになるケースが多く、私もその一人だが、一方で一応コミュニケーションツールであるツイッターは一日68時間やっていたりするのだ。


私だけではなく、外部の人間はおろか家族とすらまともに話さないが、ネットではコミュニケーションをとる相手がおり、むしろ「Show-gun」みたいなアカウント名でヴイヴイ言わせているひきこもりも少なくない。


つまり、ひきこもりになりがちなタイプは他人とのコミュニケーションが苦手で嫌いというより、「相手を目の前にしての会話」が苦手なのではないかと思う。


外では未だにこの「対面会話」という体位が正常位なところがある。よってこれが苦手で失敗を繰り返したり、時には「下手くそ!」と面罵されることにより自信を失い、外に勃てなくなってしまう人も多いのではないだろうか。


LINEから狼煙まで、コミュニケーション方法は数あれど、個人的には「対面での会話」が一番難易度が高いと思っている。

この最難方法が、コミュニケーションのスタンダードなら、それは脱落者も多く出てしまうだろう、という話だ。


私は、漫画家やライターという仕事を11年続けている。もしくは作家をやっているという夢を病院のベッドで11年見続けている。


正直今までのどの仕事や夢よりも長く続いているのだが、続いた理由は、直接話さなくていい、または現代の医療が優秀ということだ。

仕事の打ち合わせはほぼ100%メールで行っており、一度も会ったことがない担当も多い。


それが許されたからこそ、11年間私が失踪することなく、そして傷害事件が起こることなく続けられたのだ。


しかし、仕事を始める時「一度会うかお電話でご挨拶をさせてください」という担当がかなり多い。おそらくそう教えられているのだろう。


これは、ビジネスの世界において「対面で話すのが礼儀」という文化が根強く残っているということだ。


確かに「会って話す」ことには、他のコミュニケーションにはない力があるといえよう。

マンション投資の営業が「一度会って話す」ことに異常にこだわるのはそのせいである。


人の心を動かすには会って話すことが一番なことは否めないのだが、「いい方向に動かす」とは一言も言っていないのである。


漫画の編集の間では、「連載打ち切りのお知らせ」など重要なことはメールなどで知らせず、出来れば対面、最低でも電話という文化があり、それが礼儀と思っている節があるようだが「余計ショックを受けるかもしれない」という発想が抜け落ちている。


よって私は事前に「終わる時はメールで良い」と伝えていたので、本当に連載終了のお知らがメールでやってきた。

ただ、そんな重要なことをメールで済ませるなんて、と思う作家もいるだろうし、毒を塗った矢文で、連載終了と共に息の根も止めてくれという作家も多いだろう。


このように、コミュニケーション方法は相手によって変えるべきなのに「対面で話すのが正しい」という風潮が変わらなければ、当然対面会話が苦手な人間ははじき出されてしまう。


私は、編集者から電話でご挨拶させてくださいと言われたら、電話でのあいさつはそちらを「俺は今からこんな奴と仕事をしなければいけないのか」という暗澹たる気分にさせるだけでお互い不利益しかないので、やりとりはメールでお願いします、と言っている。


漫画業界というのは、猟奇殺人鬼か漫画の二択な人が来る場所(個人の感想)なので、そのぐらいの申し出で怯まれることはないのだが、普通の会社で取引先にそんなことを言ったら何だコイツと思われてしまうだろう。


「自分は、狼煙が一番問題を起こさず自分の意志を伝えられる方法なんです」と言っても怪訝な顔をされない世の中をつくることが、この世から社会的ひきこもりをなくす鍵なのではないだろうか。

★次回更新は3月5日(金)です。

カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中

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