音声に導かれる新感覚ミステリ/ 『きこえる』
文字数 1,255文字
そんな悩みにお答えすべく、「ミステリー」「青春・恋愛小説」「時代小説」「エッセイ・ノンフィクション」のジャンル別に、月替わりで8名の選者が「今読むべきこの1冊」をオススメ!
今回は青戸しのさんがとっておきのミステリーをご紹介!
新しいものが苦手だ。
Apple Musicのプレイリストに並ぶ楽曲は二〇一八年頃と比べ大きな変化はなく、ナルシソロドリゲスの香水を買うのは次で五度目になる。愛着なのか無頓着なのか、最近になってより一層時代の流れが早く感じる。付いていかなければと焦る反面、留まることの心地良さもあるのだ。
一冊の本を持ってベッドに入る。重要なのは、事前にスマホの電源を切っておくこと。子供の頃に好きだった時間をなるべく忠実に再現する為に。道尾秀介の『きこえる』のページを開いてすぐ、物語が始まる前の注意書きに、こう書かれていた。
〝この作品は耳を使って体験するミステリーです。作中に二次元コードが現れたときは、そこから「ある音声」が再生できます〟
耳を使う、二次元コード、とても小説の巻頭とは思えない。私はやれやれ、とスマホに手を伸ばした。聞こえてくる「音」に耳を傾けながらゆっくりと読み進める。
『きこえる』は五つの謎で構成された短編集だ。物語のどこかに二次元コードが記載されており、核心部分が音声で再生される。核心であって、正解が聞こえるわけでは無い。あくまでも読者が推理をする余白は残されている。写真を手がかりに推理する『いけない』に続き斬新な一冊だ。第三話「セミ」のタイトルページで全身の筋肉が硬直する。私は未だに、道尾秀介が綴る夏が怖いらしい。本棚に並ぶ『向日葵の咲かない夏』の存在を思い出して足先を布団の中に引っ込めた。「セミ」もやはり気持ちのいい話では無かったけれど、救いはあった。少年たちのこの先も、私のトラウマもきっと良くなる。そんな気がする。
新しいものは、やはり少し煩わしい。
期待は、時に失望を生むからだ。がっかりするくらいなら、と慣れ親しんだものを選択して生きてきた。もし私と同じ様な考えを持つミステリマニアが居るのなら、『きこえる』に関して、それは杞憂だと伝えたい。小説を立体的に体感する新しい謎解き、その発想も素晴らしいが、やはり道尾秀介が書いたことに意味がある。文字だけでも十分に感じ取れる緊迫感や、登場人物の感情が音になって脳に響き、無いはずの記憶に感情が揺さぶられる。
彼の才能がミステリの〝新しさ〟を〝面白さ〟に変えているのだ。最終話の謎が解けた時、聞き流していた音に、気がつけば夢中になっていたのだと気付かされた。
この書評は「小説現代」2024年3月号に掲載されました。
青戸しの(あおと・しの)
モデルや女優を中心に多方面で活躍中。MVに出演し、ヒロイン役を務めるなど活動の幅を広げている。
青戸しの インスタグラム/X(旧Twitter):@aotoshino_02