第24回 ネットで医療情報を調べると怖い結論になりがちブルース

文字数 2,347文字

稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!


前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!


お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の新たなる旅が始まるーー。

世の中には「鏡にお母さんが映っていた」「枕からおっさんの匂いがする」「もうすぐ死ぬ」など、中年や老人特有のジョークというものがあり、周囲の若は何万回とこれを聞かされることになる。

そしてやっとそれらを言う人間が全員天か土に還るころ、今度は若がそのギャグをいう側になっているのだ。

「子供叱るな来た道だ、老人笑うな行く道よ」というが老にすぐ死ぬギャグを言われた時は爆笑しておこう。


それと同じように「中高年オタクギャグ」というのもあり、一番スタンダードなのは「キャラが全員年下になった」だ。

そして、推しキャラのグッズやガチャが登場するたびに「内臓売らなきゃ」というのは全年齢版オタクギャグだが、中年以降になるとさらに「35歳以上の内臓に価値ないけどな」というツッコミまでがワンセットになってくる。


このように、世間話として臓器売買の話が飛び出る我々だが、当然それらは違法である。

だが例え正規の手順でやろうとしても臓器移植手術というのは高額になることがあり、海外で子供の心臓移植をするには日本円で3億、さらに円安のため現在は5億ぐらいかかるらしい。


まるで小学生が考えたかのような値段設定だ。

人づてに聞いた話なのでこれが事実かは不明だが、海外で医療を受けようと思ったら日本よりも莫大な金がかかることがあるのは事実のようだ。


何故そうなるかというと、渡航費などもあるが医療費制度の違いが大きいと思われる。


先日、朝起きたら突然「ワキ」に激痛が走った。

寝ている間に両腕を梁に吊るされる拷問を受けていた可能性はあるが、それ以外特に原因が思い当たらない。

そこでお得意のネットで調べたところ「乳がんの恐れ」という結果が出た。

だがむしろ、ネットで病気について調べて、最終的に「がんの可能性」にならないことの方が稀なのだ。

つまり病気に関してはいくらネットで調べても解決には至らないし、逆に状況を悪化させる可能性がある。

ネットの医療情報で唯一確実に正しいといえるのは「早めに病院に行きましょう」の一文、もしくは「股間にウナクールを塗るな」等の「やってはいけないこと」ぐらいである。


私は外に出るのは嫌いだが、「無職の特権」だけはできるだけ行使したいと思っている。


無職の特権といえば、まず定時に出勤しなくてよいことだったのだが、これはリモートワークのせいで特権でなくなりつつある。そういう意味でもコロナは罪深い。


そして次に、平日昼間に誰に謝ることもなく活動ができるというのがある。


「病院」「役所」「銀行」など、重要なくせして基本的に平日の昼間しかやっていない施設というのは結構多い。

一般的日勤の会社員がここに行こうと思ったら、思い切って休むか、周囲に頭を下げて途中で会社を抜けるしかないが、無職は誰に断わらず思い立ったが病院、ができてしまうのだ。

さらに日本の病院は大体混んでいるが、「無職なのでいくら待たされても平気」というアドバンテージもある。


そんなわけでさっさと病院に行き、数度の検査の結果、特に異状がなかったのは良かったのだが、あっという間に1万5千円以上消えてしまった。


CTを撮る時に流れる音楽をXJAPANにしてもらうなど特別な診療をしたわけではなく、すべて保険適用でこの金額だ。


わが国では、70歳以下で健康保険資格を持っていれば医療費は3割負担である。

逆にいえばそれがなければ5万ぐらいかかっていたということだ。

もしそうだったとしたら「見た感じ異常はないですが一応精密検査しますか、5万かかりますけど」と聞かれた時点で「じゃあいいっす」と断っていただろう。

そのせいで重篤な病気を見逃すことにもなったかもしれない。


この健康保険制度はどこの国でもあるわけではなく、全額自己負担の国もある。よって海外で医療を受けると超高額になる場合があるのだ。


さらに日本には高額療養費制度というのがあり、収入に応じて医療費に限度額があり、それを超えた分は払い戻される。

民間の医療保険不要派の人は、大体この高額療養費制度を根拠に挙げている。


払い戻しなので、一旦全額自分で払わなければいけないという問題があるが、それも高額医療費貸付制度を利用すれば8割無利子で貸してもらえるようだ。


だが「金がないから病院へはいかない」という人にこの制度を知っているかと聞くと、意外と「知らない」と答えるケースが多いのだという。

我が国は制度は割と充実しているが、それが必要な人に届いていないという問題がある。我々も元気なうちに情報収集、そして困ったときはダメ元でも専門機関に相談してみることが大事だ。

ちなみに健康保険が使えるのは保険が適用できる治療だけで、それ以外の自由診療は10割負担になる。

自由診療にどのようなものがあるかというと、美容整形など、病気を治すのではなく見た目を良くする治療などは自由診療になる場合が多い。


おそらく多くの人が、保険内治療で済まそうとするだろうし、そもそも自由診療が選択肢にでてくるシーンなんてそこまでないと思うだろう。


しかし、それが普通に出てくる場所がある。

それが「歯医者」だ。


この話は長くなるので次回にしたいと思うが、私の話は「歯の話だけはためになる」と評判なので必読だ。

カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

Twitterはこちら:@rosia29

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