第70回/「還付金無し」に泣いてる無頼派の背中

文字数 2,318文字

稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!


前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!


お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の旅がつづく。


今更自分が入っている保険の内容を確認したのだが、内容以前にまず「入っている件数が想像以上に多い」ということに気づく。


そして内容を検めた結果「とにかくがんになる準備は万全」ということだけはわかった。

がんで入院になった際おりる保険に、実質合計4つも入ってしまっている。


一族郎党全員死因ががん、という呪われしがん家系であればこれぐらい備えることもあるかもしれないが、うちは見渡す限りがんはいない。

もちろん万が一の可能性に備えるのが保険だが、いくらなんでも備えすぎなのではないか。

備えあれば憂いなしだが、保険料によって備えが憂いと化している。


保険に入るのは悪いことではないが、入るなら自分に必要な保険に入るべきである。

医療保険は誰でも病気になる可能性があるので入って無駄ということはないが、病気が打線を組んでいる状態でもない限り、私のように3つも4つも入る必要はない気がする。


それに医療保険が必要になる可能性が高い病気がちな人間は、そもそも医療保険に入れなかったりもするのだ。

数年前、何故か「もう一つ医療保険に入ろうとする」という、今思えば正気を疑うムーブがあったのだが、奇しくも私はその時受けていた健康診断で「要再検査」になっていたため加入を断られてしまった。

こちらとしても別にこれ以上保険に入りたかったわけではない。クラスの話したこともない小ブスに「悪いけどお前とはつきあえない」と謎の先手でフラれた気分だ。


私のような大病をしたことがない人間が要検査レベルで加入を断られるのだから、持病を持っている人などが入れる保険はかなり限られているのだろう。

本当に必要としている人ほど入れず、私のように滅多に風邪も引かないバカほど入れるという矛盾である。

逆に言えば、医療保険は使う当てのないバカの内に入っておいた方が良いとも言える。必要になってから入ろうとしても遅い。


そういう意味で、私のバカの内に入った医療保険やがん保険も今後生きる可能性はある。


しかし「生命保険」に関しては、当時何を思って入ったのか全く謎である。

生命保険はもしもの時に入って来る金額が巨額なのだが、「自分は死んでいるので自分は受け取れない」という致命的欠陥がある。

よって生命保険のは一家の柱を担っている者が、もしもの時のためにパートナーや子供にまとまった金を遺すために入るものだと思われる。


逆に言えば、遺す家族がいない天涯孤独の人間が入っても、あまり意味がないということだ。


私の生命保険は独身時代に加入しており、受取人は母親になっている。


確かにどうせ死ぬなら親に今までの費用を還元して死んだ方が良いとは思うが、順当にいけばこっちの方が長生きしてしまうので、あまり意味がない。


だが、ちょうど加入した時、私は4年ぶり2回目の無職に返り咲いていたので、もしかしたら「順当ではないこと」が計画されていたのかもしれない。

だが結局保険は使用されることなく、今は受取人が夫なので全く無用というわけでもないが、当時なぜこの保険に入ったかは本当に謎である。


しかし、保険のメリットは、もしもの時に保険金が入るだけではない。


すでに会社員の皆様は、「年末調整」という我々フリーランスや無職に世界一関係ないイベントのために必要書類を提出されたかと思う。


保険は税金控除の対象なのでそれで幾分か税金が安くなるのだ。

もちろん口で「俺はがん保険二つ医療保険に一つ、生命保険に個人年金も入っているし、もちろん地震保険もある」というだけではダメだし、場合によっては「そんな奴いるかふざけるな」と経理に怒られてしまうかもしれない。

私も同感だ、そんな奴が存在してたまるかと自分でも思う。

 

よって保険料を控除するには、保険会社などから送られてくる控除証明書を添付しなければいけない。

ちなみに扶養家族がいれば、その分の保険料も控除に入れる。


年末調整の書類というのは、人によって厚みがかなり変わって来る。

基本的に家族や住宅ローンなど、背負っているものが大きい人間ほど書類が多くなり、片や背負う者もなければ保険にも頼らないという無頼派は、その場で自分の住所氏名だけを記入して提出することが可能である。


それだけ保険に入っていれば、さぞ控除が大きいだろうと思われるかもしれないが、保険の支払い額がそのまま控除されるわけではなく、謎の計算式で削ぎ落される上に控除の天井がソシャゲより低いので、思ったほど税金は返ってこない。


私もその昔年末調整組であったが、今思えば書類を出すだけで、計算も申告も会社がタダでやってくれるのだから恵まれている。

これがフリーランスになると「確定申告」というさらに難解なものとなり、人にやってもらおうと思ったら税理士に有料でやってもらうしかない。

やはりこの国はフリーランスという罪に対する罰が重すぎる。


ちなみに年末調整の還付を現金で受け取りにして、家族に内緒の小遣いにしてしまう人も結構いる。


家族にしたら業務上横領かもしれないが、還付が多いということは平素それだけ背負っているということである。その重量に免じて、還付を懐に入れるぐらい許されても良いのではないかと思う。

カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

Twitterはこちら:@rosia29

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