第73話/親族よ、おまえもか。新年早々驚愕の告白

文字数 2,302文字

 稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!


前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!


お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の旅がつづく。

ご存じの通り新年早々各地で大変なことが起こっている。


現在も大変な人が多くいる中、何もせずいつも通り過ごして良いのかという気もするが、何もできない無力な人間にも「余計なことをしない」という唯一にして無二のできることがあるという。


何の被害も受けてないのに無駄にお通夜ムードを出して周囲を暗くしたり、明るく振る舞う人に苦言を呈して空気をギスつかせるぐらいなら、何もしない方が無害な分だけマシということだ。

あとは、無造作に突っ込んであるレシートを除く小銭入れの中身を全てコンビニの募金箱にダンクしとけば十分、500円はキツイというならそれも除外してOKだという。


そんなわけで、私は年始をいつも通りに過ごさせていただいている。

年始と言えば、私の実家と夫の実家での親戚の集まりである。


そういえば、X上で「親戚の子どもから何をやって食っているのかわからない謎のおじさんポジになりたい」「やっと謎おじポジになれた」などのポストが散見されて驚いた。


おそらく子供から見て「両親や教師とは一味違う、無頼でカッコいいおもしれー大人ポジになりたい」という意味だと思われる。

だがこのポジションには、自分でも何で食っているのかわからない不確かな存在でありながら、恥も外聞もなく親戚の集まりに参加し、誰よりも動かず、誰よりも飲み食いする大人になるだけではつくことができない。

「おもしろい話ができる」「おとし玉をしこたまくれる」「会社員じゃないけどカッコよさげ仕事をしている」などプラスアルファがあって、はじめて子供から見て「おもしれー大人」になれるのだ。


ただの何して食ってるかわからない得体の知れない中年は、子供からも距離を置かれるだけなのである。


そんなわけで「何をして食っているかわからない」以外何も謎おば条件を満たしていない私は、他の大人連中に比べ、明らかに親戚の子どもたちから一線引かれており、その辛さが年々増す一方なので、わざわざ目指すようなポジションではない。

親戚のおじおばなど、厄介事を起こさずお年玉さえくれればそれで充分なのだ。


一応お年玉は渡しているが、渡す役をやっているだけであり、中身は夫が用意したものである。

このまま行くと「お年玉をあげる」という大人の社会活動を一度も経験せずに死にそうな気がする。


しかし、これは私だけのせいではなく、私側の親戚にお年玉をあげる子供が発生しないせいでもある。

実際、謎おじになる条件は満たしているのに肝心の子どもがおらず、むしろ謎おじの数だけ増える現象が起こっている一族も多いようで、改めて少子高齢化の深刻さがうかがえる。


そんなわけで正月2日には、少子高齢化を体現した私の実家に行ったのだが、そこでお年玉の話になった。


我が一族はすでに平均年齢50をゆうに超え、誰にもお年玉をあげず、もらわずの均衡状態が20年以上続いている不毛の地である。

よって「お年玉と言っても親が大半預かることになるよね」というぬるい話がはじまったことに不自然にさを感じはしたが、そこから母による「私と兄のお年玉を預かって使い込んでた」というカミングアウトが始まるとは全く予想がつかなかった。やはり2024年は乱世である。


あまりにも虚を突かれすぎたため「知らなかったっけ?」という母の問いに、私も兄も「知らんかったな」と答えることしかできなかった。


本当にこれは初耳であり、預けたお年玉を改めて渡されることはなかったが、進学など何らかの形で我々に還元されたものだと思っており、疑いさえしなかった。


逆に言えばここまで子供に全幅の信頼を寄せられている母が、一体何に子供のお年玉というキラーコンテンツを突っ込んでしまったかの方が気になる。


馬券すらネットで買える今なら、家族に気づかれず家の金を使い込むことは容易だが、私が記憶する限り、母が突然Hカップになるなど、不審な点はなかった。


我々の生活が苦しくて使ったというなら、それはもはや使い込みとは言わないだろう。

ここまで堂々と「使い込んだ」と言うぐらいだから、見事私欲のために使いきってくれたに違いない。


何に使ったかぐらい聞いておけばよかったのだが、本当に呆気にとられてしまったのと、私の夫、つまり母から見れば義理の息子がいる場で、乳輪を一回り小さくする手術の話が始まっては困る、という気持ちから深く追求せずに、その話はあっという間に流れてしまった。


今思えば純粋な興味として聞いておけばよかったという気持ちでいっぱいである、正月2日にして今年最大の好機を逃したと言える。


しかし我々兄妹はお年玉の行方に全く疑問を抱いていなかったので、母が言い出さなければ墓場まで持っていけた話なのだ。


それをわざわざ自分から言い出したということは、母なりにずっと気にしていたのかもしれない。

その罪悪感がなくなったのなら何よりだ。


もしくは1ミリも悪いと思っておらず、笑い話のつもりで言い出したかである。

どちらにしても母にそんなサイコ沢パス子な一面があるとは知らなかった。今年はディスカバリーな1年になりそうである。

カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

Twitterはこちら:@rosia29

「寝そべり錬金術」は毎週【金】曜日12時ごろ更新!
↓前回の「寝そべり錬金術」はこちら!

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色