第61回/親に経済状態を尋ねる困難について

文字数 2,295文字

稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!


前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!


お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の旅がつづく。

ワケあって「買うと損する金融商品」という特集の雑誌を読んだ。


様々な危険とされる金融商品が紹介されていたが、一言でいえば「証券会社などの販売員がゴリ押してくる商品はヤバい」ということである。


もちろん、銀行や証券会社の営業が全員悪人なアウトレイジ業界というわけではない。

しかし会社から過酷なノルマを課せらた末、顧客の利益は二の次の、販売手数料や信託報酬が高い上にハイリスクな商品を勧めてくることは実際あるのだ。


手数料などに関しては、ネット証券会社を使い、自分で金融商品を選んで買った方が圧倒的に安い。

自分で選べないからプロに選んでほしいのだと思うかもしれないが、そのプロが「お客様にお勧めの商品です」と言って、カバンからおもむろにクソを取り出してくることもある。


そもそも投資に「確実」という言葉はなく、どんな優良商品も一夜にしてクソに転じる可能性がゼロではないのだ。


どうせクソなら、他人に差し出されたクソより、自らの手で掴み取ったクソの方が納得できるだろうし、少なくとも手数料分だけは得である。


よって私も現在、窓口や販売員を通さず、自らネット証券でクソを手ごねしている状態だ。


それ以前に、私には銀行や証券会社から金融商品を勧められる機会自体がないのだ。


噂によると、銀行などを訪れた際に「銀行なんかに貯金していてもフケのような利子しかつかないので投資をしませんか」と勧誘をされることがあるらしい。

フケみたいな利子をつけている側にそんなことを言われるのは驚きだが、銀行的にも貯金より投資をしてもらった方がありがたいのだろう。


よって、銀行に行くたびに、投資の勧誘を受けたらどう断ってやろうと考えているのだが、未だに誘われたことがない。

おそらく通帳の残高を見て、勧誘するか否かを判断しているのだろう、元々フケみたいな金しか持っていない奴には声をかけないのだ。


つまり金のない奴に対し、そこにない金を運用する信用取引などを勧める行為はしていないということだ。我が村の地銀が良心的で本当に良かった。


そんなわけで私にとって「高手数料ハイリスクローリターンのクソを勧めてくる販売員」というのは、実在しているかどうかもわからない、想像上の敵でしかない。

自分のレベルが上がると敵が強くなるRPGのように、それに遭遇するには私のレベルが低すぎるのだろう。


しかし、実は私の実家には「証券会社の人間」が出入りしていたのである。

もちろん私に用があったわけではなく、私の祖母ことババアに会いにきていたのだ。


かなり長期間にわたって電話をかけてきたり、家に訪問していたので、おそらくババアは何らかの投資をやっていたのだろう。


しかし、当時子供だった私が、投資だの証券だの理解しているわけもなく、玄関で証券会社の人間と話しているババアを尻目に、テレビから流れるドラゴンボールの主題歌をラジカセで録音していたりした。

今だったら「手数料もったいないからネット証券にしようぜ」ぐらいは言えるが、当時はネットなどなかったので、何も言えることはない。


その後、私は家を出て、ババアも現在では90代半ば、デイサービス鬼リピ中の身なので、さすがに今は投資みたいなことはやっていないだろう。


つまり結局ババアが証券会社と何をしていたのか、現在も何か金融商品を持っているのかなど一切不明なのである。


実家に行き、本人と母に聞いてみればわかると思うし、持っているならネタのため内容を知りたい。


しかし、今まで実家の金回りについて一切関心をしめしてこなかった私が急にババアの財産について深堀りしだしたら、確実に何らかの「ヤる気」を感じて出禁になってしまう可能性が高い。


しかし、ヤるヤらないかは別として、親などの経済状況を把握していないと、後々困ることもあるだろう。


日本の死後事務はかなり煩雑だと聞いているし、故人の財産が判然としていない場合はさらに困難を極めるだろう。

よって、終活の一貫として、死ぬ前に財産を一覧にしておくことが推奨されているのだ。


しかし本人が率先してやってくれるなら良いが、子ども側から「財産情報を明らかにしてくれ」と言われたら、親が気分を害したり「ヤる気」を察知して身の危険を感じてしまうかもしれない。

もっとカジュアルに親子で死に支度ができる空気が、日本には必要である。


また、財だけでなく、借金があった場合もその旨を明らかにしてもらわなければ困るのだが、借金があるか、と尋ねられて素直に「ある」と答える人間は少数派なのではないか。


それに意を決して、親に経済状況を尋ねても「それよりお前の経済は大丈夫なのか?」と聞き返されたら、「この話はやめよう」と、こちらから話を打ち切らざるを得ない。


ただでさえ金の話をするのは難しい。さらに「ない側から切り出す」というのは勇気がいることなのである。


だが、私の場合「いかにも死んだあとで借金が発覚しそうなタイプなのに意外にもなかった」という意味で死後評価が上がる可能性があるので、今後もできるだけ借金はしないようにしたいと思う。


カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

Twitterはこちら:@rosia29

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