第8回 AIさまの汗をふくのが、俺たち人間の仕事さ
文字数 2,475文字
稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!
前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!
お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の新たなる旅が始まるーー。
資産を作るためには、まず稼ぐ、そして貯める、それで余裕ができて初めて投資などで「増やす」という選択肢が出てくる。
つまり最初の「稼ぐ」の時点で「労働」を避けることがほぼ不可能なのである。
ここを回避しようと思ったら、トラックに轢かれて麻生家に転生するなど、若干ピーキーな作戦を取らざるを得ない。
どのルートを選んでも労働が避けられない上に、避けようと思ったら死ぬ。どうあがいても絶望なSIREN社会自体が欠陥のようにも見えるが、労働をやめたらやめたでナウル共和国みたいになるに決まっている。
つまり人間は働こうが働くまいが破滅する。
どうせ破滅するなら働かないという選択肢を選びたいところだが、結末は変わらないにしても働かない方が「早急に破滅する」ため、破滅RTAに挑戦しているのでなければ働いて破滅まで時間稼ぎをする必要がある、というのが実情だ。
しかし「労働」と一言で言っても種類がいろいろある。
労働という時点で総じてクソであることは否めないが「このクソの中から一つ選んで素手で掴め」と言われた時、シズル感あふれる若々しいクソと、風化寸前のほぼ土なクソとでは肉体的精神的負担は大きく変わるはずだ。
労働も職種によって、精神的肉体的、何より経済的負担が大きく替わってくる、どうせクソを掴まなければいけないなら少しでもいいクソを厳選した方が良い。
仕事を選ぶ時は、需要がなくならない業界、もしくはこれから伸びる業界を選んだ方が良いと言われており、少なくともFAX業界のような斜陽産業や絶滅危惧産業には行かない方が良い。
そこで近年よく言われているのが、「AIに奪われない仕事につけ」という言葉である。
元々人間の仕事や生活を助けるためにAIを作ったはずである。
それが何故、いつの間にかAIが仕事を奪い人間が困窮する話になってしまっているのか。
社会という檻を自ら作って自ら閉じ込められ「生きづらい!」と悶絶する一人監禁プレイだけでは飽き足らず、ついに自分が作った機械に自分の仕事を奪わせてのたうつNTRにまで手を出し始めてしまった。
他の動物に比べて順応力や進化がなさすぎる人間だが、「変態性」に関しては他の動物の追随を許さないばかりか、未だに右肩上がりである。
そういう意味ではまだまだ人間も捨てたものではない。
逆に言えばAI業界は今後伸びるということだ。
AIは人間のように陰部を擦り合わせてできたりできなかったり、予想外にできてしまったり、という適当な方法で発生したりしない。
AI技術開発、AI製作、AI操作、AIの汗を拭く仕事など、AIに携わる仕事は今後需要が高まることが予想される。
ただ、タピオカ屋や異世界転生が乱立しすぎてしまったように、旬の業界というのは競合が多く敗れてしまう可能性も高い。
いざという時のために、ライバル会社に特攻を仕掛けるAIも開発しておいた方が良いだろう。
「今後伸びる業界2022」のという記事をみたところ、「IT業界」もまだまだ伸び代があると言われているようだ。
AIやIT関係の知識や技術を身につけておけば食いっぱぐれ辛いし、高い技術を持っていれば高収入も見込めるかもしれない。
しかしIT業界は伸び代がありすぎて、昨日の最新技術が今日のアナログ、俺とお前と誰や君状態であり、常に最新のIT知識と技術を学び続けねばならず、年を取るとついていくのが厳しくなり、その時点でそれなりの地位になってないとリストラ対象になりかねない、という説もある。
AIにNTRされるだけではなく、垢抜けない田舎ITに都会を教えてやったら逆に自分がついていけなくなって捨てられるという、逆木綿のハンカチーフプレイにまで興じている有様だ。
流行りの業種というのは伸びも良いが、それゆえに進化も目まぐるしく、さらにその伸びがいつまで続くかわからないという先行き不透明感がある。
また、どんな業種であろうとも、コロナのような誰も予想がつかない事態が起こると一気に傾いてしまう可能性がある。
そのような突発的事態に振り回されたくなければ、人間にとって必須の業界を選んだ方が良いと言われている。
外出自粛により、外食産業は大きな打撃を受けたが、何があっても人間は「食べる」という行為を自粛することはできない。
よって意外にも「農業」も今後伸びる業界に入っているのだ。
日本は少子高齢化で人口減少中だが世界人口は増えているので、食料の需要は増しているのである。
それと同じように、人間が「何かあっても潔く死ぬ」というスタイルにならない限り、「医療」が不必要になることはない。
ただ医療現場の逼迫が度々ニュースになるように、必需業界は「仕事にあぶれることがない」というだけで「楽」というわけではない。
ちなみに「エンタメ業界」もまだ伸びると言われている。
奇しくもコロナによる外出自粛により、室内娯楽の需要が一気に高まった。
そこで「部屋から出ない遊び」の味を知って抜け出せなくなった者も多いため、電子書籍や動画配信などのエンタメ需要は今後も続くと予想されている。
漫画業界もそのおかげで過去最大の利益が出た、という噂もある。
つまり漫画業界は今、好景気と言っても良い。
しかし、私の景気が良いかというといまだにデフレとしか言いようがない。
景気の良い業界を選ぶのは大事だが、景気が良い業界に入れば自分も無条件で好景気になるとは思わない方が良い。
労働というクソに種類があるように、業界の中にもまた格差が存在するのである。
山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。
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