第60回/がん保険に2つ入っているが
文字数 2,180文字
稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!
前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!
お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の旅がつづく。
知らない内に「がん保険」に2つ入っていることが判明し、がんになる準備だけは万端であると判明した。
だが、がん保険に入っておけばよかったという後悔の声も聞くし、ただでさえ日本人はがん死亡率が高いのだから、入っていて悪いということはないだろう。
ただ、補償内容を全く把握していないものに毎月金を払い続けているのもどうかと思うので、一度保険の内容を確認してみることにした。
確認したところ、どうやら二つのがん保険は補償内容が若干違うようだ。
まず両方に共通しているのが「がん診断共済金」である。
おそらくこれは「がん確定激アツボーナス」ということだろう。
もちろんそんな不謹慎な説明はされていないが、「がんと診断された時にもらえる金」という意味なら、あながち間違っていない。ちなみにボーナス額は50万円である。
ならばがんと診断されるたびに50万もらえるかというと、「共済期間を通して1回」と書かれているので、多分1回だけなのだろう。
しかし私は2つがん保険に入っているので、一回目のがんが見つかった時、片方の50万だけ請求して、再度見つかった時にもう片方の50万を請求する使い方が可能なのか気になるところだ。
だがそもそもがん保険に2つ入っていて「がん保険を片方温存」という発想が出てくること自体がおかしいのかもしれない。
続いて共通なのが「がん入院共済金」である。
これはがんで入院した時支払われるものであり、1日あたり5000円、日数は無制限とある。
つまり私は×2で一日1万円支払われることになる。
「×2」という言葉が出てくることに違和感を覚えるが、1日1万無制限はかなり頼もしい金額だ。
最後に「がん手術共済」が共通しているのだが、こちらは金額が若干異なる。
多分がん手術を行う際に支払われる金だが、片方は「10万円」もう片方は「手術の種類に応じて5万、10万、20万」とある。
つまり、でけえヤマであるほど支払われる額が上がるということだろう。しかし支払い回数は「1回」とあるので、ショボい手術だと5万しか支払われずに損ということになってしまう。
そう思ったが、屁みたいな手術で何とかなった方が良いに決まっている。
保険金を巡って事件が起きたり、保険金には人の感覚や倫理を狂わせる力があるので、もっと取り締まった方がいい。
ただ何せ私はがん保険が2つあるので、手術の規模がイマイチであれば10万の方を使い、もう片方は20万チャンスが来るまで温めておいた方がいいかもしれない。
このようにがん保険が2つあることにより、様々な組み合わせによる最強のがんデッキが展開できるのだが、何せがんなので「ステイ」を選ぶといろんな意味で使わず終いになってしまう恐れがある。
ここからは、内容が違う部分なのだが、まず片方には「がん放射線治療共済金」と「がん治療共済」という補償がある。
「がん放射線治療共済金」はその名の通り、がんの放射線治療を受けた際に支払われるもので5万円ほどもらえるらしい。
次の「がん治療共済金」は「1年に1回を限度 通算無制限で25万円」とある。
これは詳しい説明を聞いてみないと定かなことは言えないが、がん治療を続けている限り年1で25万円もらえるという解釈で良いのだろうか。
そうだとしたらおいしい、と思ったが、何年も継続してがん治療をしている状態がうまいわけがない、やはり保険金は人の何かを狂わせる。
そしてもう片方の保険だが、まず「がん退院後療養共済金」というのがある。
おそらくこれは「退院ボーナス」であり、10万ほどもらえるそうだ。
そして先ほど、がん保険デッキの構築をミスったことにより、保険を使わないまま「終了」の恐れがある、と言ったが、こちらの保険はそういったミスをカバーする内容になっている。
それが「がん死亡共済金」「死亡給付金」である。
説明はいらないと思うが、がん死亡共済が50万、死亡給付が5万となっている。
がん保険が2つもいらないと思ったが、片方は治療をサポート、もう片方は死ぬ準備と、かなりバランスの取れた内容になったいる。
しかしどっちも死んでいるのに「がん死亡共済金」と「死亡給付」に分けられているということだ、死んだあとに「これはがんが原因で死んだわけではなく自然死である」とゴネられ5万だけしか払われないというトラブルが起こってしまうのではないか。
しかし保険会社が遺族を前に50万ごときの支払いをゴネ出したら世も末である。
そうなった時のために「もしゴネられたら会社名と営業所名指しでXに書け」と遺言を残しておきたいところだが、何せ夫の会社の保険なのだ。
夫は会社に忠実な男なので、おそらく5万だけ受け取ってXには書かないだろう。
そもそも忠実なせいで私はがん保険に2つ入っているのだ。
山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。
Twitterはこちら:@rosia29