第2回 メロスV.S.インボイス
文字数 2,633文字
前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!
お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の新たなる旅が始まるーー。
前回はこちら。
金をテーマにした連載を始めることにしたのだが、最近金関係でホットな話題と言えば「インボイス制度」ではないだろうか。
私が言うホットとは「Twitterでホット」という意味であり、外界では全くホットではなく、むしろTwitterでホットな話題を「全人類が知っていること」という体で話てしまい、クールな目で見られることもしばしばだ。
実際私がインボイスの話題を目にするのはTwitterなのだが、それは私の視界にTwitter以外が入ってくることが稀なせいであり、他でも多分話題にはなっているはずだ。
では私のTLでどのように話題になっているかというと、主に「このような邪智暴虐の制度は必ず除かねばならぬ」という論調が多い。
そしてそうやって激怒しているのはメロスかというと、個人事業主、つまりフリーランスだ。
そしてフリーランスの中でも、特に零細のフリーランスに影響がある話らしい。
おそらくメロスも、暮らしぶりからして零細のフリーランスである可能性が高く、インボイスに関しても激怒しているのかもしれない。
だが零細フリーランスに関係があるというのであれば、メロスよりも自分に関係が深い話である。
今までインボイスのことを知らなかったのかと驚かれていると思うが、平素「政治がわからぬ」などと恥ずかしげもなく言うやつの感覚とはこんなものなのだ。
おそらくメロスの王も「今度こういう邪智暴虐をしますけど構いませんね?」的なことを小声で言っていたと思う。
しかしその時メロスは自分には関係ないと思って、笛を吹き羊と遊んで暮らしていたのだ。
そして自分に実害が及ぶ段階になって「誰に断ってそんなことを」と激怒しているのではないか。
インボイスに関しても現時点で激怒している人はまだ早い方であり、実際に施工される令和5年10月になってから初めて「そんな話聞いていないぞ」と激怒し出すフリーランスが一定数いるのではないかと思われる。
早くからその邪智暴虐に気づき反対運動をしていた人たちからして見ると、後戻りできない段階になってから激怒し出すメロスの方が、ある意味王より苦々しい存在なのかもしれない。
日本は建前上民主主義国なので、あまりにも反対意見が多い制度であれば見送りということになるかもしれない。
そんな大事な時に関心を持たず、「自分、政治はわからないんで」と笛を吹いて羊を追いかけているメロスタイプは、意識が高い同業者からすれば王より先に除いておきたい存在だろう。
このようにその業界にいながら、業界に関するニュースに関心がない、というのは自分が困ることになるのはもちろん、同業者にも迷惑をかけかねないということでもある。
金も同様であり、もし金を手にしたいと思うなら、まずは金に関する情報に関心を持つことからなのかもしれない。
やはり「金に無頓着」な人のところに金は貯まらないし、むしろ使わなくていい金を使っていることの方が多いのだ。
それはともかく、結局インボイスとはなんなのか、というと私の理解が正しい自信がないので、正確に知りたい人は各々正確な解説を読んでもらいたい。
どうやら、軽減税率の問題で事業主は請求をする際「インボイス」という請求書を出さなければいけないらしいのだが、そのインボイスが出せるのは課税事業主だけだそうだ。
課税事業主とは課税売上が1000万を超える事業主で、それ以下の者は免税事業者となる。
請求書をもらう側はインボイスがないと仕入れを税額控除に入れられなくなるため、できればインボイスを発行できる業者に仕事を発注したいと思うようになる。
つまり、インボイスが出せない、売上が1000万円以下のフリーランスは仕事を回してもらえなくなるのでは、という危惧がまず上がっている。
売上1000万円以下の事業者と聞くと、結構高収入なイメージになってしまうかもしれないが、たとえ年収が30円でも「年収1000万円以下の事業主」であり、この時点でかなりザックリしている。
ただ免税事業主でもインボイスを発行することはできるらしい。
そのためには課税事業主になる必要があるそうだ。
売上1000万以下であれば免税にはなるのだが、本人が「いや年収30円でも税金払いたいっす!」と言えば課税事業主にはなれるらしい。
つまりインボイス制度が施工されると、零細フリーランスは仕事を干される、もしくは売上も大してないのに今まで払わなくて良かった税金を払って、インボイスを発行しなければいけなくなるかもしれないということだ。
この理解で正しいとしたら、フリーランスが反対するのは当然である。
しかし、インボイス制度の影響をモロに受けることが予想されるフリーランスの中にも、未だにこのインボイスの存在すら知らないという人は少なからずいるはずだ。
私も一日68時間Twitterを見て、さらに金がテーマの原稿を書かなければ、施行日まで知らなかった可能性がある。
実際施行されたとしても、それを知っていて対策していた者と当日知った者とでは大きな差がつくはずだ。
やはり何事にも「関心を持つ」ということは大事である。
ちなみに漫画業界に関係があるかというと、まず「漫画家に請求書なんか出せるわけがない」という問題がある。
しかし、漫画は比較的影響が少ない業界ではないかと言われている。
何故なら集英社が「尾田先生はインボイス出さないらしいんで、仕事は他に頼みますわ」と言い出すことはまずないからだ。
集英社じゃなくてもインボイス出すか出さないかで作家陣を決める雑誌など、ほとんどないだろう。
つまり漫画家がインボイス制度で仕事を干されるということはなく、干されたとしたら、ただ単に漫画がつまらかっただけだ。
逆に言えば「誰でもできる仕事をしているフリーランス」が危ないということだ。
つまり私は確実に危ない、今からでも反対運動に署名をしてくる。
山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。
Twitterはこちら:@rosia29