第22回 40歳になりました。加齢とお金のポジティブな話を探そう!
文字数 2,205文字

稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!
前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!
お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の新たなる旅が始まるーー。

私事だがこの11月で40歳になる。
「この年になったら誕生日なんかうれしくないわよ」と肩をすくめてみせたり、いくつになったのかと問われて「レディに年を聞くなんてマナー違反だぞ!」と言いながら「23回目の17歳!」など、中年女が誕生日に求められるおどけが良いとは全く思わないが、40歳の誕生日がうれしいかというと、実際そんなにうれしくないのである。
だがこのうれしくなさは肉体の老いに対してではなく、肉体に精神が全く追いついていないという焦りによるものである。
人間の肉体は、本人が何もしなくてもある程度自動的かつ平等に成長して老いるものだが、精神はそんなに優しいシステムではない。
精神は経験や学習によって成長していくものである。引きこもってろくな経験をしていなかったり、経験してもそこから何も学ばなければいつまでも幼いままなのだ。
中間管理職のような面構えをした幼児がいる一方で、未だにムシキングにしか興味がなさそうな中年がいるのはそのせいである。
私は明らかにムシキング側なので、同世代と比べて自分の幼さに落ち込むことの方が多いし、若人と比べるとしたら、その若さにではなく「若いのに俺の5億倍しっかりしている」という点に落ち込むのである。
しかし、我が国ではどんなポンコツでも飯を食っていいし、屋根のある家で寝ていいと憲法で定められている。
他人と比べて自分の存在意義を問うなど憲法違反もいいところなので、サツに見つかる前に即刻やめるべきだ。
しかし、生きる権利があると同時に、我が国では健康上の理由などがなければ、勤労、納税、教育の「義務」が課せられていたりもする。
義務といえば40歳から「介護保険料」を支払わなければならない。
このように、中年になってから始まることというのはテンションが上がらないことばかりだ。
二十歳で飲酒喫煙ができるようになるのがピークで、あとは課せられたくない義務や加齢による体の不具合が増えるだけである。
しかし、子供が歩きだしたり喋りはじめるのが人間として順当に成長している証なら、不具合も順調に老化している証と言える。
よって、はじめてパパとかママとか言った日を祝うのと同様に、はじめて「リモコン」という単語が出てこずに「あれ取ってあれ」と言った日も祝うべきである。
これから我々は嫌でも100年ぐらい生きてしまうのだから、もっと加齢をポジティブにとらえるべきだろう。
介護保険料を支払わなければいけないというのは一見ネガティブなことだが、「介護保険を利用できる」ということでもある。
逆に言えば、要介護でも40歳未満だと介護保険を使うことはできないというシビアなルールということだ。
ならば、40歳になるまで介護保険が必要になるような事態にならなかった幸運を祝ってもいいだろう。
そもそも40歳から介護保険を支払わなければいけないは、人間40を超えたらいつ介護が必要になってもおかしくないからである。
いつ介護が必要になっても不思議では年齢なのだから、40過ぎたら尿漏れの1回や2回で落ち込む必要もないということだ。
具体的に介護保険が何に使えるかというと、負担額に上限はあるが介護サービスを受けるとき1〜3割負担になり、家をバリアフリーにリフォームするときに補助が出たりするようだ。
ただ、介護保険は要介護や要支援の認定を受けていなければ使用できないようだ。
この認定を受けるまでの手順がわりと面倒くさく、また介護度によって使える限度額なども変わるらしい。
よって介護認定は非常に重要だが、なぜか認定日の時だけいつもはできないことができてしまい、どう見ても要介護なのに介護保険が受けられないという問題が起こってしまうこともあるらしい。
これはボケてもなお息子の嫁を困らせてやろうという姑スピリッツの表れではなく、「人様の前ではちゃんとしたい」という潜在意識があるからだと思われる。
つまり認知症になったからといって全く何もわからなくなっているわけではなく、人格や人としてのプライドは残っているということだ。
しかし現実として、介護保険が使えないというのは死活問題なので、もし自分が介護認定を受ける段になって自我がまだ残っているようなら、認定日前にいいちこを痛飲するなど、むしろ調子を崩して挑戦したいと思う。
ちなみに介護保険は年金と違い、死ぬまで払い続けなけなければいけないようだ。
つまり若が老を支えるという構図ではないので、余計遠慮なく使うべきだろう。
現在は家を建てる段階で手すりを設置したり段差をできるだけなくしたりと、ある程度バリアフリー化されている場合が多く、私も現時点でも手すりにはかなり助けられている。
もしこれから家を建てる予定があるなら、「手すりとコンセントは何個あっても困らない」ということを覚えておいてほしい。
山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。
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