第17回 10年後の8月また売りつけられるのをどうして→太陽光発電

文字数 2,259文字

稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!


前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!


お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の新たなる旅が始まるーー。

我が家の10年点検のお知らせがやってきた。


この家を建ててから早10年、どうせあちこち老朽化しているから修繕しろと言われるに決まっている。

言われるがままにつけた太陽光発電も、電気の高額買取は10年までで、来年から電気代激増が決定している。


太陽光発電といえば、今夏都心で未曾有の電力不足が起こったのも、太陽光などの自然発電をゴリ押ししたせいで火力発電所の数が減ったせいとも言われている。


果たして今まで太陽光発電で我々に良いことがあっただろうか。

愚かな人間のためではなく、地球のため、SDGs!SDGs!ということなのかもしれないが、太陽光発電関連会社の敷地と社長の愛人数が2倍ぐらいになっていないだろうか。


我が団地は、太陽光パネル設置はほぼ義務、団地内の景観のため敷地に2種類の庭木植樹が義務、防犯対策のセコム加入5年が義務とやたら義務が多かった。

当時は何も考えなかったが、今考えればどう見てもズブズブである。


うちにセコムに守ってもらうような財はない。むしろセコムに入ったせいでさらに財が減った。そして庭木は伸びすぎて今年ついにご近所トラブルである。


しかしこれら全ては「今思い返せば」であり、買った当時は「そんなもんか」と疑問にすら思わなかった。

家という人生で一番高額な買い物に対しここまで思慮がないのは異常であり、典型的情弱貧乏に陥りやすい人間の行動だ。


せめて、植樹はするが造園会社はお前らが提携している所は使わないし、ALSOKに入る。緑化と防犯が目的なら業者はどこでもいいだろう、俺は沙保里派強火だぞ、と詰めて厄介客リストに入ればよかった。

おそらく当時我々は業者にとって極めて扱いやすい客だっただろう。


そして太陽光発電の高額買取が終了間近になった頃、今度は蓄電池の営業がやってくるようになった。


流石に私も学習した。


学習したと言っても、蓄電池のことについて勉強し、電気代が安くなるという営業を「それってあなたの感想ですよね?」と華麗に論破した訳ではない。


逆である、もっと馬鹿になるのだ。


相手はプロであり、こっちは馬鹿である。話を一旦聞いてしまったら「蓄電池にした方がいいかも」と思ってしまうし、相手は「説明会の参加」など、必ずその場で何かを決めさせようとしてくるし、一回約束をしてしまうとそのまま契約まで行ってしまう危険性がある。

この方法で、私は数十年の住宅ローンを組むことに成功したのだ。


よって「話を最初から聞かない」に越したことはない。

まず、インターホンの時点で会社名と用件を聞き、セールスなら出ずに断る。

運悪く出てしまった時は「ちょっとお時間いいですか?」の時点で「今仕事中」と答える。


必要なのは知識ではなく、今まさに仕事をしている人の前で平日昼間に自宅にいる奴が「仕事中だ」と言い切る胆力である。


それでも何か言ってくるようなら「何もわからない人」になる。

私には何の決定権もないし、そっちが言っている意味もわからない、ご主人にお伝えくださいと言われても「伝言」なんて高度な真似はできない。

今お前がやっていることは犬に一生懸命アポを取ろうとしているのと同じだし、まだ犬の方がワンチャン(犬だけに)意味を理解しているとアピールし、とにかく「詳細」は聞かないようにする。

だが、相手も「犬が出てきても粘れ」と教育されているのか、一旦出てしまうと食い下がってくるので、インターホン時点で出ないのが一番だ。

セールスの場合は「ちょっといいですか?」だけで会社名や用を名乗らない場合があるので、必ず名を名乗らせ、名乗らなければ「拙者最初は契約結婚だった2人が惹かれ合う話大好き侍!」とこっちが名乗りを上げてクールに去ろう。


どれだけ護身術とマーシャルアーツを極めようとも、痴漢や暴漢に出会ったら撃退してやろうなどとは思わず逃げに徹せよというようにセールスも話を聞いた上で論破して断るなどという好戦的なことをしてはいけない、1回や2回勝てても、いつかは負ける。

向こうは負けても上司に怒られるぐらいだが、こっちは1回負けたら10年の蓄電池ローンである。


相手も仕事であり、頑張っている人を無下に追い返すのは気がひけると思うかもしれないが、そういう情にほだされると終わりである。

ハウスメーカーの営業に、机の上に両手をついた状態で頭を下げられ数十年ローンを組んだ俺が言うのだから間違いない。


相手の食い下がり方は様々だが、蓄電池の説明会をやるから来てほしいという営業が「ここ一帯の家を回ってますが、多くの人が説明会に参加してます」と言ってきたことがある。


同調圧力を狙った作戦だろうが、ここ一帯の家と全く交流がなく、極力近所の人と顔を合わせたくない私には悪手中の悪手だ。


しかし、もし近所の人と交流があったら「みんなが行くなら」と行っていたかもしれない。


人付き合いは大事だが、逆に「仲間はずれにされたくがない故の散財」も多い。

やはり孤立はコスパがいい。

カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

Twitterはこちら:@rosia29

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