第13回 夫に5万回くらい言った話が聞き流されていたと判明
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最近夫がマイナンバーカードを作ったようである。
そして現在マイナンバーカードを作ると20,000円相当のポイントが付与されるそうで、手続きの説明から、付与されたau PAYのポイント画面まで見せてくれた。
au PAYとはかなり渋いチョイスと思ったが、マイナポイントは深谷市の地域通貨「ネギー」にも替えられるので、その中ではまだまだメジャー志向が抜けきれてないと言えるだろう。
おそらく夫は、「得だからあなたも作ったら良い」という親切心でこの話をしてくれたのだろう。
しかし、私はすでに数年前にマイナンバーカードを作っており、マイナポイントも申請しているし、何よりその話を夫に5万回してしており「あなたも作ったら良い」と5億回勧めたはずである。
そしてその旨を夫に伝えたところ、完全に「初耳」というリアクションであった。
このように夫は私の話を聞いていない。これは本人が言っていたので間違いがない。
夫曰く「自分は中間管理職として会社では常に気を張っており、仕事柄老と接する機会も多い。よってあなたの話はあまり聞かなくて良いと思っている」とのことだ。
「よって」の部分にある壮大なストーリーが省略されているような気もするが、つまり家は自分にとって休む場所なので貴様の話で余計疲れるわけにはいかない。そしてお前に割く脳のリソースはない、ということなのだ。
確かに私の話など、全社員が「入社する前からあったから何なのかわからない」と言うので消すに消せないデスクトップ上にある謎のエクセルデータのようなものだ。そんなものに容量を割いている場合ではない。
ではなぜ5億回の提言を無視してマイナンバーカードを作らなかった夫が急に作る気になったかというと、多分会社で必要になったからだろう。
だが、ないと思いたいが、会社の人間など他の人物に「得だからあなたも作ったら良い」と勧められたから、という可能性もある。
世の中には配偶者や家族がいくら言っても聞かないが、同じことを他人、特に目上の人に言われると素直に聞く人間がいる。
これは相手を舐めているからであり、自分より馬鹿な人間の言うことなんて間違っているに決まっていると思っているからである。
もちろん、これは憶測に過ぎず、万が一そうだったとしても「便所を綺麗に使え」と2回も注意される女を舐めるなという方が無理だ。
しかし、話を聞かないというのはモラルハラスメントであり、その点については怒っても良いだろう。
とはいえ、私も夫の話を聞いていないし、夫の勧めることは大体無視しているのである。
夫は私より大体のことに優れているが、「情報」に関してはジュラ紀なところがある。
何せ、実写デビルマンの評判を一切知らず、「レンタル屋で見つけて面白そうだったから」と借りてきた人間である。
実写デビルマンをジャケ借りしてくるしてくる人間の情報が、最新なはずがない。
我々はお互いがお互いの話を聞かないことで、均衡を保っているのだ。
よってマイナポイントに関しても「何を今更」と思ったのだが、一点引っかかることがあった。
私がマイナンバーポイントを作った時もらえたポイントは5,000円分ぐらいだったような気がする。少なくとも20,000円ももらっていない。
もしかしたら、5,000円もの大金を出せば全国民釣れると踏んだのに、思ったより釣果がなかったので20,000円に増額したのだろうか。
だとしたら、早めにカードを作った人間ほど損しているということだ。
そんな馬鹿な話はあるかと、マイナポイントの公式ページに飛んだところ、マイナンバーカードを作ったことに対するポイントは従来通り5,000円分だが、今年の6月からマイナンバーカードを健康保険証として利用するサービスに申し込んだ人にさらに7,500ポイント、また公金受取口座の登録をした人に7,500ポイントの合計20,000ポイントが付与されるようになったようだ。
それ以前に作った者も、新たに申請すれば15,000ポイントもらえるということである。
今年6月以降作った者は、同時に健康保険証と口座の登録もしてもらえるが、早くに作った者はもう一度申請しなければならず、二度手間という意味ではやはり早く作った方が損している。
だが、それ以前に夫がマイナポイントの話をしてくれなかったらこのことを知らなかっただろう。
申請するかどうかは置いておいて、実写デビルマンをジャケ借りした男の情報により、私は15,000円を得るチャンスを得たのだ。
現代では、効率よく稼ぎ、そして無駄金を使わないための「情報」が重要である。
私のようなインターネットクソ野郎はネットで全ての情報が得られると勘違いしがちだが、このように人からの伝聞でしか気づけない情報も多々ある。
しかし、どんな有益な情報をもらっても、実写デビルマンをジャケ借りしてくる人間がいうことなんて間違っているに決まっている、俺様がネットで調べた情報こそが全てという考え方では、生かすことができない。
人の言うことを素直に聞く、そしてたとえ実写デビルマンをジャケ借りしてきた人間でも舐めない、というのは何事においても大事である。
山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。
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