第75回/子どもが親ガチャを引く時、親も子供ガチャを引いている

文字数 2,278文字

 稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!


前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!


お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の旅がつづく。

ソシャゲのガチャには「出るまで回せば出る」という至言がある。

それと同じように現代日本は「ボケるまで生きればボケる」という社会になりつつある。


認知症リスクは高齢になるほど高くなり、80歳以上になれば2人に1人は認知症になるとも言われているようだ。

そして日本人の平均寿命は男女ともにすでに80歳を超えている。


つまり、どうかボケる前に死にますようにと祈るのではなく、もはやボケる前提で話を進める時代に突入しているということだ。


現に先日別の仕事で「ボケる前に今できること」という特集が組まれた週刊誌を貰った。これからは終活の前にボケ活が必要ということである。


しかし、このボケ活は基本的に自分のためではなく、それを介護する家族のための活動だ。

確かに独り身がどれだけ周到なボケ準備をしたところで、それが必要になった時、本人にはすでに計画を実行する判断力も行動力もない可能性がある。


だが例え残す家族がいても、みんなが終活やボケ活を考えるわけではない。

確かに「残された者が困るからちゃんと終活してくれ」と言ったところで「俺は死んでいるから困らない」と返されたら、もはや説得する術がない。

この世に「死人」以上の無敵の人は存在しないのである。


やはり終活やボケ活というのは、人並み以上の責任感、そして死んだあとのことまで考えられる「余裕」がなければ、やろうという気さえ起こらないものであり、万人がそれを持っているわけではないのだ。


親ガチャという言葉は良くないが、自ら進んで終活やボケ活をしてくれる親はかなりのSSRである。

しかし、ソシャゲ界にも「グレードは確かにSSRだが性能がR以下」というカードが存在するように、終活はしてたがその内容を一切子供に伝えておらず、余計場を混乱に落とし入れる親や、犬神家みたいな遺書を残して、残った親族の人間関係を破壊し、時には死人すら出すN以下のURも存在するので、活動していれば良いというものではなく、一番大事なのは意志の疎通である。


そんな子供は当てにならないと言う動機で、セルフ死に支度をする親が増える一方で「親の老後に親が当てにならない」という理由からなのか「親の介護保険」というものも存在するらしい。


「学資保険」の対義語のような保険である。

だが、80歳以上の半分が認知症になるかもしれない、ということは80歳を超えた両親は100%ボケるということである。

おそらく数学的には破綻していると思うが、親の介護を不安に思い、何らかの準備をしておきたいと考えている子供世代が多い、ということだけは確かだろう。


ただ、子供が親の介護保険に入るというのはあまり良いことではない。


私がもらったボケ活雑誌には、とある芸能人の親の介護体験談が掲載されていた。

氏は自分の仕事も優先しつつ、老母の故郷を離れたくないという希望を叶えるため、片道3時間の遠距離介護を決意し、母の生活を直接支援してくれる専門家とも話しあいを重ねたという。


かなり大変だし時間も労力も相当使っているが、それでも「費用」に関してだけ母の貯蓄と年金で賄っていると書かれている。

これに対し芸能人なのにケチ、や親に対して薄情と感じる人もいるかもしれないが、実はこれが正解であり親の老後に関しては「親の金の範囲内でなんとかするのが鉄則」と専門家は口をそろえて言っている。


子どもの養育費は基本的に親が出すものなので、逆に親の介護費は子供が出すものと勘違いしてしまいがちだが、そんなことをすると子供の生活費や老後の費用がなくなってしまう。

よって親の介護費は親の貯蓄や年金内から出し、なければ、親に金がないことと自分も援助が不可能であることを専門家に相談して対策を講じるべきであり、とにかく子供の手だしは少なくしなければいけないのである。


よって、親の介護のために子供が保険料を払っているという状態も健全とは言えず、心配なら親自身に介護保険や認知症保険に入ってもらった方が良い。


子供がすべきことは金を出すことではなく、親の希望を聞き、その希望をできるだけ叶えられるよう、情報を集め専門家と話し合いをすることであり、そのために時間や労力が手出しになるのはさすがにやむなしである。


つまり、親にとって真に当てにならない子供とは、金がない子供ではなく、コミュ症の子供である。

例え金がなくとも、我が国では人並みのコミュ力さえあれば、福祉など方々に相談して最悪の事態は避けられるはずなのだ。

世の中には責任感の強さから、家のことを誰にも相談せず抱え込んでいる人も多いと思うが、コミュ症も同じぐらい一人で抱え込みがちであり、しかも責任感タイプより詰むのが早い。


コミュ力のなさをねじ伏せられるほどのお金パワーがあれば別だが、何故か金とコミュ力のなさは両立しやすいという側面があり、私も両雄並び立っている状態だ。


子どもが親ガチャを引く時、親も子供ガチャを引いているのだ。

そして、親ガチャより子供ガチャでドブを引く方が、ある意味深刻なのである。

カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

Twitterはこちら:@rosia29

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