第54回/台所のアレがぶっ壊れて全てが災厄の夏

文字数 2,394文字

稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!


前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!


お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の新たなる旅が始まるーー。

朝起きたら食洗機が壊れていた。


これは起きたら虫になっていた以上の衝撃である。

むしろ食洗機死亡より、私が虫になっていた方が我が家に与える影響は少ない。


説明書を見ると水漏れを起こしているようで、対処法は「修理を呼ぶ」一択、自らできることはないらしい。

だが逆にここで別の選択肢を出されると「直そうとしてさらに破壊する」パターンに陥るので、北方謙三御大のように、「修理を呼べ」と断言してくれて助かったかもしれない。


いつもであれば、「ホットペッパーでネット予約できない店は使わない」でおなじみの俺様である。修理も「修理予約フォーム」的な物を使い、極力人間と話さないように呼ぶところだ。


しかし、今回は「食洗機」である。

多くの食洗機ユーザーは、食洗器を復活させられるなら手段を選ばないはずだ。

修理費も元値以上にならなければ言い値で支払うだろう。「生贄」を求められれば瞬時に死んでもいい奴の顔が2、3人思い浮かぶはずだ。

最悪「買い替え」と言われても、食洗機ユーザーの辞書に「食洗機のない生活」という文字はないのである。


一秒でも早く修理してほしいし、メール予約では「余裕あり」とみなされ返信が遅れるかもしれない。それ以前に本当に届いているのかさえ疑わしい。

よって、いつもは極力避ける「電話」を一番に選んだ。それぐらいなりふり構ってはいられなかったのだ。


我が家の食洗機は、キッチンに備え付けのものである。

よってまず、ハウスメーカーのヘルプデスクにかけてみたが、このフリーダイヤルがつながらないことで有名であり、2億パーセント「このまま待つか、かけなおしてください」と言われるが、待ってもかけなおしてもつながることはない。

そこで「こちらからかけなおすのでヘルプデスクの予約をとってください」という提案を、機械音声でされる。

「ヘルプデスクの予約」とは穏やかではない文言だが、仕方なく予約しようと思ったら予約が「3日待ち」であることが判明したため、ここでハウスメーカーは諦めた。


ヘルプを求めている人間がこんなに多いとは、世界は思った以上に過酷である。

しかし電話をしてくる時点で家主はかなり追い詰められていると思うので、そこで「まずヘルプに電話がつながるのに3日かかります」は、体制を見直した方が良いのではないか。


しかしメーカー側も、いつまでもカスタマイズセンターに人間を並べ「コンセントは刺さってますか?」などと確認させるような前時代的なことに人件費を割きたくないのだろう。


最近はヘルプデスクにAIを導入しているところも増え、電話をする前にAIのチャットボットに相談してみてくれと言われることも多くなった。


確かにコンセントの刺さりを確認させるのに人力を使うのは、あまりにもコスパが悪い。

ファミレスも配膳ロボを使うようになってから、クレームが減ったという。

人間はロボやAI相手の方が冷静になれるのだ。逆に言うと、人間にしか高圧的に出られない悲しい生き物なのである。


このハウスメーカーにも「いえこわそうくん(仮)」という、キャラクター調のAIチャットボットにLINEで相談できるサービスがある。


しかし「食洗機」が壊れている人間に「こわそうくんとLINEでやり取りしてください」というのも酷な話である。それに相談したところでこわそうくんのアンサーは、「修理を呼んだ方がいいポヨ!(以下修理予約フォームのアドレス)」に決まっている。

こちらは修理の予約を電話でしたくて電話をしているのだが、こういう「メールは信用できん」という老害がいすぎて、ヘルプデスクが3日待ちになってしまっているのかもしれない。


もう大人しくメール予約しようかと思ったが、次に食洗機のメーカーのヘルプデスクにかけてみると、こちらは意外なほど早くつながった。


フリーダイヤルではなく、有料番号にかけたのが功を奏したのかもしれないが、やはり食洗機オンリーと家総合では、電話をかけてくる奴の規模が違うのかもしれない。家では毎日何らかの地獄が展開されているのだ。


そこで食洗機の状況を伝え、「担当の者から折り返す」という話になった。


そこから10時間の時が経った。

やはり、メールの方が早かったのではないか、もう一度かけてみるか、と思ったが、そういうしつこい客のせいで電話の待ち3日が発生するのである。


だが夕方には電話がかかってきて「それは修理に行くしかない」という、朝の時点でとっくに分かっていた結論に達し「修理は約一週間後」という話になった。


あまりにも遅い。侘び寂びを感じるレベルの悠長さだ。

しかし、先日我が地域は集中豪雨に見舞われ浸水した家も多く、それらの修理対応で現在大忙しなのだという。


確かに食洗機が使えないのは死ぬほど不便なのだが、床上浸水にみまわれたお宅の不便さにはさすがに負けるし、食洗機ユーザーに「じゃあ食洗機は諦める」という選択肢はないので、諾々と待つしかない。


ちなみに修理費は安くても1~3万程度になるという。


そして、ついでに最近冷蔵庫の調子も悪い。どうやら「電化製品が一気に壊れる確変タイム」に突入したようだ。


食洗機はまだ贅沢品とされがちだが、さすがに冷蔵庫は必需品だろう。

人間らしい生活を送ろうとするだけで、こんなに金がかかるのはどういうことなのか。

カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

Twitterはこちら:@rosia29

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