第23回 努力 納税 A BEAUTIFUL STAR

文字数 2,382文字

稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!


前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!


お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の新たなる旅が始まるーー。

少し前に、某漫画家が年金未払いで2000万円以上を差し押さえられた、というニュースが話題になっていた。


最初は本人も、なぜそんなことになっているのか本気でわからずパニックになり、差し押さえの明細をこともあろうかTwitterに上げたあと事実が判明してしまったため、余計大ごとになってしまったようである。


基本的にTwitterは、「悪いことをした奴は集団で死ぬまでボコる」という正義感が強い人の集まりである。

そんなところで年金を払っていないなどとバレたら、大変なことになってしまう。

よって、もし自分が差し押さえを食らうことがあれば、内々で処理してなかったことにするだろう。少なくともTwitterにだけは書かない。


それを自らTwitterに画像付きで上げてしまうとは、当初、本人にとっては本当に「心当たりがない」差し押さえだったのだろう。


「バールで本体を破壊したら動かなくなったんですが故障でしょうか?」とカスタマーセンターに問い合わせてくる奴のようにある意味無邪気なのだが、このことで「これだから漫画家とかフリーランスは」というクソデカ主語になってしまい、「こんな奴らがインボイス反対とか片腹痛い、どんどん締め上げるべき」という話までのは痛恨である。


確かに税金や年金を滞納している率は、会社員よりフリーランスの方が高いと思う。

だがこれは、フリーランスが国民の義務を果たす意志のない非国民の売国奴ばかりだからではない。

会社員は給料から年金も税金も天引きされるため、滞納したくてもなかなかできないシステムになっているからだ。

対してフリーランスは源泉徴収を引かれるぐらいで、その他の支払は自ら行う必要がある。

よって会社員より「うっかり滞納」が多く、それがズルズル続いてしまうケースもあるのだ。


だからといって滞納の言い訳にはならないし、確実に税を取り立てられるシステムがないフリーランスに対し、何とかしてとりっぱぐれがないようにしたいという国の考えもわかるが、フリーランスだってちゃんと支払いをしている人の方が大多数なはずなので「フリーランスは全員税金や年金を適切に支払っていない」とは思わないでほしい。


「いや俺は全然払ってないし周りも全員払ってない」というフリーランスの方もいるかもしれないが、それは今言わなくていいし、少なくともTwitterには書くな。



私は意外と税金や年金は払っている方だが、なにせフリーランスなのでうっかり何かを払っていない可能性がゼロとは言い切れない。だが少なくとも故意に払っていないものはない。


税金は高すぎだし、年金も「俺たちが老になるころには200円ぐらいしかもらえない」と言われている、そんなものに金を払うのは正直嫌だ。

しかし、国民の義務を果たさなければ「私は義務を果たしているのに何で国は国民を守るという義務を果たしてくれないんですか!?」という被害者ヅラができなくなってしまう。


うっかり滞納を防ぐには口座引き落としなど、期日になったら強制的に支払われる手続きをしておくのが一番だ。

しかし「いちいち払いに行くのも面倒だが、引き落とし手続きをしにいくのも面倒くさい」というのも、滞納者あるあるであることは否めない。


余談だが、最近年金がクレカ払い可になったのは地味にありがたい。

これで支払い忘れもないし、クレカのポイントもつくため、この調子で税金もクレカ払いさせてほしい。

正直私にとって税金ほど大きな出費はないので、これにポイントがつけば楽天でカイジレベルの豪遊が可能である。


このように、ちょっと気を抜くと国民の義務を放棄しがちなフリーランスだが、会社員なら滞納、まして差し押さえなんて完全に無縁かというとそうでもない。


私は会社員時代事務職をしており、社員の給与支払いに関わることもあったが、ごくたまに税務署などから「おたくの社員が滞納しているから次回の給与はこっちに支払ってくれ」という差し押さえのお願いがかかってくることがあった。


何故そうなるかというと、転職により前年の収入にかかる住民税を払っていなかったというケースが多い。

住民税の支払は次の年にやってくるので、転職をした人は注意が必要である。

フリーランスであれば滞納もこっそり処理できるが、会社員だと最悪会社に滞納がバレてしまう。

いきなり会社に電話したり差し押さえるのはひどいと思うかもしれないが、いくら鬼畜国家といえど本人を飛ばしていきなり会社ということはなく、まずは本人に連絡するはずであり、それに応じないから会社に連絡するというケースが大半だと思われる。

電話は無視、税務署からの封書も開封すらしてないため、本人は「いきなり差し押さえられた」と感じるのだが、それは怪しいエロサイトを見ていた老が「何もしてないのにパソコンが壊れた」と言っているのと大差ない。



そうは言ってもない袖は振れないので、税金や年金を払えない時もあるだろう。

そんなときは早めに税務署に連絡をすれば、分割など相談には応じてくれる。


国というのは数少ない思う存分悪口を言っていい相手だが、税金や年金などを払っていないと瞬時に「おまいう」になってしまう。



これからも、国の悪口言いたい放題料と思って支払いをしていくしかないのだ。

カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

Twitterはこちら:@rosia29

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