第28回 カレー沢薫の事件簿 追加納税4500円の謎

文字数 2,347文字

稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!


前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!


お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の新たなる旅が始まるーー。

「金」をテーマに開始したこの連載だが、気づけば半分ぐらいは税金に対して憤っているような気がする。

だが、税金の別名は「政治の悪口言っていい料」である。しかも私は外出をしないので、図書館を利用したり、税金で整備されたアスファルトを切りつけながら暗闇を走ったり、クルマのライトにkissを投げながら車道で踊るなど、正規手段で税金をゲットワイルドする機会に恵まれていないのだから、せめて愚痴ぐらい言わせてほしい。


だがやっとこの11月末で今年分の税金を払い終えた、つまりほぼ1年中税金を払っており、また一か月もすれば次の税金がはじまるのだ


「税金が終わる」「終わったらどうなるの?」「知らんのか、次の税金がはじまる」じゃあないんだよ、である。コブラはもっとその状況に疑問を持った方がいい。


だが、それでも今年の税金は無事払いきったので、来年の確定申告までわずかの休息である。


そう思った私の元に一通の封書が届いた。差出人は「税務署」である。


何も悪いことをしていなくても、交番の前では視線つま先一点集中の駆け足になってしまうように、税務署からのお知らせには嫌な予感を抱いてしまう。


身に覚えがなくても開封したくないのだから、覚えがある人間が開けるはずがない。税務署の封書による督促はほぼ無意味と言っていいだろう。


しかし、税務署からのお知らせは開けても良いことはないが、開けないともっと悪いことが起こる。「君たちに悪いお知らせと、もっと悪いお知らせがあるがどちらから聞きたい?」と、どっちでもいい質問をして尺を取ってくるボンクラ指揮官みたいなところがある。


寝かせても良いことはないのですぐに開封したところ、簡単に言えば「もう1回税金が払えるドン!」という旨のことが書かれていた。


ここで注意しなければならないのが、詐欺の中には国税局などを名乗ったものもある、ということだ。


人間はなんだかんだで、国家権力、そしてエロに脅されると弱い

だから詐欺師は警察を名乗ったり、お前の使ったエロサイトの料金を支払えと言ってくるのである。

私にも国税局を名乗るメールが来たのだが「Cメール」というカジュアルぶりだったので開くことなく捨てた。

日本の国家機関がそんなハイテクな方法を使うはずがない。メールで送るなら、CCに他人のアドレスを大量に入れたまま送るなどディティールを詰めておくべきだ。


だが、今回の通知は日本の役所らしく封書である。

そしてもう1回支払えと言ってきた金額は「4500円」だ。


正直その金額を見た時はちょっとホッとした。

しかし、冷静に考えてみれば、ここまで税金を取り続けておいて、さらに払えとはどういうことかである。


まず、詐欺の可能性はおそらくない。

封書には納付書とさらに私が今年提出した決算書を元にした計算書も入っていた。

これが詐欺だったら、私は詐欺グループに決算情報まで押さえられているというさらなる大事件に発展するし、そこまでやっておきながら請求金額が4500円というのは相手に詐欺の才能がなさすぎる。


本物だとしたら、なぜそれを支払わなければいけないのか、という話だ。


結論から言うとよくわからない。


封書には「市県民税が変更になりました」と書かれており、変更した結果あと4500円払うことになったようだ。

ではなぜ、市県民税が変更になったのかというと「賦課資料により変更」だそうだ。

何も説明していないのである。


確かに別紙に表がついており「総合譲渡・一時」という部分が増えているのだが、なぜ増えたのか説明がなく、ここで行き止まりだ。


おそらくお上も不当に私から4500円とってやろうというわけではなく、正当な理由があるのだと思う。


しかしその理由を説明し、こちらに納得させる義務をあまりにも放棄していないか。

これでは、税金を窓口で支払う時、その場で「あと500円くれる?」と言われたらこちらは諾々と百円4枚と50円玉2枚を渡さなければいけないということになってしまう。


だが、私は確定申告を税理士に任せているので、税理士側には説明があったのかもしれない。

だとしたら税理士側も私に「こういう理由で4500円追納がくるが気を確かに持ってくれ」と一報入れるべきだろう。


これは私も気をつけなければいけない。

「人は人の金のことになると適当になる」ということでもある。


私も逆の立場だったら「ここまで払ってきたんだからあと4500円ぐらい払えと言われても、特に何も考えず支払うだろう」と思って、適当な説明と納付書だけ入れて封書でいきなり送ってしまうような気がするし、税理士も4500円ぐらいならいいかと思ったのかもしれない。


まさか私が4500円でここまで全てを呪っているとは思わないだろう。


つまり、人の金を「このぐらい」と舐めてかかると、呪われる。最悪、一生消えない怨恨になる恐れがあるということだ。


金に関しては説明と納得させる労力を惜しんではいけない。

カツアゲも「500円貸してよ」ではなく「借りるという名目で一生返しませんが貸してください、これからコンビニでメビウスを買うのに使います、8円は自費です」と使用目的と内訳を説明してからやってほしい。

カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

Twitterはこちら:@rosia29

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