第43回/他人任せNG! お金は血だ! 肉だ! 己自身だ!

文字数 2,467文字

稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!


前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!


お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の新たなる旅が始まるーー。

放っておくと呼吸レベルで税金と保険への私怨を吐き出してしまうため、たまには「投資」の話でも、と話を振られたりするのだが、正直投資に関するトピックはそんなにない。


確かに私は投資らしきことをしているが、それらは「iDeCo」「NISA」そして「積立投信」である。

おそらくこれは弁当で言うと「かまぼこ」「白い具なしスパ」「何かの豆」にあたる、地味投資四天王なのではないか。

いきなり1人足りないような気もするが、おそらく最弱だから死んだのだろう。


地味ゆえに、大きく下がることもなければ上がることもなく、全部積立なので私がやることも特になく、正直ほとんど放置している。


投資で特筆すべきことがある人というのは、四方をディスプレイで囲まれて秒単位で売り買いをしているデイトレーダーや、もっと巨額を動かしている人だろう。その巨額も自分のものでなければさらにアツい。


確かに私も、パソコン、アイパッド、スマホに囲まれた生活をしているが、それは全画面でTwitterを表示させるためである、今後職業を問われたら「無職」「他人の不幸ソムリエ」に加えて「デイツイッタラー」と名乗ることも視野に入れたい。


よって投資について聞かれたら、「下がっている日もあれば上がっている日もある」としか言えず、「明日は雨か晴れまたは曇り」みたいな世界一つまらない話になってしまう。


最近唯一の朗報といえば、初めての株でありながら買った瞬間暴落し、私のデビュー戦を引退試合にした「JT株」が数年ぶりにプラスに転じたぐらいだろうか。


実際これにショックを受けて数年投資には全く手を出さなかったので、これは「よくわからないまま始めてしまった」典型的な失敗談と言えるだろう。


だが「よくわからなかったからその程度で済んだのだ」と言う人もいる。


確かに「尻の穴に単三電池を完全に入れられるようになったから、そろそろビール瓶ぐらい大丈夫だろう」となるように、何事もちょっと慣れた時が一番危険なのかもしれない。


会話だって、相対性理論についての討論が始まったら「黙る」以外の選択肢がなく、最悪でも「みなさんすごいですね、私はそういうの全然わからなくて」と口を挟み「わからないなら黙っていろよ」という顔をされるだけで済む。

それよりも、読んだことはないけどウキペディアであらすじだけ知っている漫画の話が始まった時の方が危険である。

半端な知識で話題に乗ろうとして、識者に間違いを指摘され、最終的に「一度読んでみてくださいよw」と失笑される大やけどになりかねない。

良く知らないものには「恐怖」を感じるため、最初から近づかないか「慎重に行く」ことができる。

私もJT株が暴落した話をよくするが、多分具体的な金額をいうと「よくそれぐらいの損で何年も嘆き続けられるな、逆にコスパがいい」と言われるだろう。

さすがに「よく知らないけど有り金全部突っ込むぜ」とは思えないため、生活が破綻するレベルの損はしていない。


逆にちょっと株を理解し、半端な自信をつけたころであれば、「これは確実に上がる、有り金を全部つっこむしかない」という判断をしてしまうかもしれない。


それに、最初に損をしたというのは逆に良かったのかもしれない。

ギャンブルも初回で儲けてしまう「ビギナーズラック」を経験した人ほど、ハマって抜けられなくなる、というのはよく聞く話だ。

初手で「才能がない」とわかったおかげで、「才能がない奴でもできるものだけにしよう」と思えたのだから。


わからないなら他人に任せるという手もあるが、少し前に芸能界でも「投資で増やしてあげる」と金を集め、一生返ってきそうにないという事件があった。


やはりいくらわからなくても、金は他人に預けるべきではない。

「俺はキンタマの構造を何も知らない」からと言って、キンタマのことを良く知っている人に預けようとは思わないだろう。

大事なものはよくわかっていなかったとしても、他人にいじらせるぐらいなら、自分でただ大切に保管していた方がマシである。


その結果「久しぶりに見たら腐っていた」ということもあるかもしれないが、腐らせたのは自分なのでまだ納得がいくだろう。

知らないうちに他人が水やりを忘れて枯れさせていたら納得がいかないだろうし、金ばかりか人の縁まで失いかねない。


やはり資産運用というのは、「自分のわかる範囲」に留めておいた方が良いのだ。


ちなみに最近は「AIに任せる」という手もある。

AIに「月三万で適当に何か買ってくれ」と言えば、適当に何か買ってくれるシステムだ。

「手堅く買ってくれ」と指示すればそこまでリスクのない商品を買ってくれるし、「ギリギリで生きていたい」というリアルフェイスを方針にすれば、ハイリスクハイリターン商品を揃えてきてくれたりする。


AIであれば自分でやるより安全そうだし、人間のように他意を含まずやってくれそうに思える。

私も一時期AIを使っていたのだが、結論から言うと「地味投資なら手動でやった方が良い」気がする。

何故なら、AIを使うと当然「AI使用料」を取られるため、利益が出ても手数料を引けば微々たるものになってしまうからだ。

どうしてAIがやっているのに、邪悪な人間に手数料を払わなければいけないんだという気もするが、タダで代わりにやってもらえるわけはないのだ。


むしろタダは信用ができない。

どうしてもキンタマを他人に預けるときは、「キンタマ預かり料」をちゃんと取る相手にした方が良い。

カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

Twitterはこちら:@rosia29

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