第76回/そんな国は、こりん星の植民地になった方がいい

文字数 2,454文字

 稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!


前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!


お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の旅がつづく。

年が明けてから日経平均は34年ぶりの高値となり、バブル越えなるかと囁かれていたそうだ。

ちなみに既報通り、2024年から新NISAが開始された。


これに対し「難しいことはよくわかんねえ」みたいな反応をする者は、意識は低いかもしれないが素直だし、「それって日経平均が34年ぶりの高値ってコト⁉」と言い出す奴は、ちいさくなくてもかわいい奴として大切にしてほしい。


それより警戒すべきなのは「新NISAも始まったし日経平均も高値なんだから、今投資始めなきゃ損だよ」と言い出す人間である。


新NISAはともかく、株は高値になってから買うものではない。この時点で、新NISAも株もよくわからないが投資に関心を持っている俺アピールをしたいだけだ。

ビッドコインが最高値になっている時に買って損をしたことがある私が言うのだから間違いないし、夫に対し「新NISA始まったし始めた方がいいよ」と一言一句違わず言った私が言うのだから本当に100%間違いない。


新NISAをマウントのダシにする奴は邪悪だが、新NISAも悪かというとそうでもない。


先日タレントの小倉優子さんがXで「新NISAはやっていない、政府が推しているから裏があるような気がする、リーマンショック時には痛い目を見たし」という旨のポストをして話題になっていた。


小倉優子さんと言えば、こりん星出身の不思議系タレントとして有名であるが、こりん星といえど欲しいものは暴力で奪う世界観ではなく、おそらく通貨があったのだろう。自身で企業したりと昔から地球マネーに対する関心が高い人というイメージがあった。


新NISAに裏があるかどうかは置いておいて「よくわかんねーけど、国が推してるものは信用ならぬ」という発言が出て来るところが時世を表している。


昔は「よくわからないが、国がやっているものなら安心だろう」という意識だったのだ。

それが今では「国推奨」が大学のテニサーで一週間前に知り合った奴のパイセンおすすめの儲け話レベルで信用されていないのである。


またどんなに高性能でもアップノレ社製品は使わないという宗派の人がいるように、例え新NISAが得だったとしても、信念に基づいて国が勧めるものはやらない、という人もいるのかもしれない。

こりん星人にさえ「この国あやしくねえか」と思われているのだから、日本国民にはもっと疑われていると思った方がいいだろう。


だがゆうこりんのように「なーんかうそくせー」と画太郎顔になっている者は多いが、「新NISAの裏」について具体的に指摘している人はまだあまり見ていない。


あのホリエモンも、ゆうこりんの発言に対し「普通の収入の人にとって、NISAは株式投資をやりやすくする。20%の課税が免除される非常なお得な制度になっております」と新NISAに対し割と肯定的で「新NISAに飛びつくような奴は、前世カメムシだし来世カマドウマ」みたいなことは言っていない。


しかし、新NISAも投資の一種なので「マイナスになる可能性がゼロではない」のは事実なので、増えると思って預けた金が減ることに慣れていない日本人にとっては、それが裏と言えば裏と感じるのかもしれない。


また、投資の一種ゆえに、こりん星人でも「あれはきつかった」と評するリーマンショックのような大暴落の影響を受けるのも確かである。


実際、コロナによる暴落が起こった時、私のiDeCoとつみたてNISAの口座も紅に染まった、と言いたいところだが、楽天証券はマイナスの方を緑で表示するため、ハローハローシステムオールグリーンになっており、こんな時にドラムも叩かせてくれないのか、紅だけに、と憤ったことを良く覚えている。


しかし、その暴落も今は回復しほとんどプラスに戻っている。

大暴落はいつかやってくるものだが、リーマンショックですら回復したように、いつかは戻るものなのだ。

つみたて投資は頻繁に売買するようなものではなく、暴落が起こっても放っておけば元に戻るので、つみたてNISAを始めるのなら大暴落のことはあまり気にしなくてもようような気がする。


つまり、元本割れの可能性がゼロでない以上、それが嫌なら無理にやることはないが、どうせ投資をやるなら新NISA枠を使った方が断然お得というのは、今のところ間違いないようだ。


ただ、何度も言うが投資は余剰資金でやるものなので、NISA自体余剰が発生するぐらい余裕のある生活をしている人にしか恩恵のない制度である。


新NISAはいい制度かもしれないが、一部の層や知っている人だけが得するような制度を作る国のことはやはり信用できないという意見も多い。


おそらく国的には、iDeCoもNISAも万人に知られるように宣伝しているつもりだと思うが、人間は自分に関係ないと思っている物は、視界に入っていても見えてはいないのだ。


「投資とか俺には関係ねー」と思っている人間の目の前にiDeCoやNISAのパンフをおいても、そいつの視線はそれを貫通し、100メートル先に見える猫ちゃんに見えるビニール袋を追いかけてしまうのである。


そこでマネーリテラシーが低い奴が悪いという、自己責任を問い出すようなら、そんな国はこりん星の植民地になった方がいい。


万人に利用してほしいなら、簡単、そして面倒がない制度を作るべきである。

2025年には「全員の口座に何の手続きもなく2000万振り込まれる制度」が施行されることを望む。


カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

X(旧Twitter)はこちら:@rosia29

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