第46回/申し遅れました。毎月「2万1千円」です。

文字数 2,448文字

稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!


前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!


お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の新たなる旅が始まるーー。

厚切りジェイソン氏の資産形成本を、序章の時点で「それができれば苦労はしない」とゴッ閉じしてきた。

ちなみに、「苦労はしない」と言いだす奴ほど今まで何の苦労もしていなかったりする。


結局どんな資産形成本も、要約すれば「労働、貯蓄、投資」しか言っておらず、語彙だけなら「はーい、バブー、チャーン」のいくら氏と同レベルである。

大の中年がそんな乳幼児本読むこと自体が金と時間の無駄であり、我々が探しているのは最低でも、「労働」部分をスキップしている大人の読み物である。


逆に言えば、その三つができている人間は金が貯まるということだ。

ジェイソン氏も稼ぐ力があるだけではなく、自身をケチレベルの「倹約家」だと言っており、3000円の帽子を「高い買い物」と言い、しかも「あとから無駄遣いを猛烈に後悔した」と言っている。


金持ちと言えば万札でケツを拭いているイメージがあるが、むしろ金持ちほど、一度ケツを拭いた万札を洗ってもう一回ケツを拭いたりする倹約家だったりする。


だが金持ちほど金を使わないというのは全く使わないという意味ではなく、「無駄なことには使わない」ということであり、先行投資や、自分にとって大事なことには惜しみなく使うのである。


お金配りおじさんのお金配りも無駄遣いではなく、配ったお金以上の宣伝効果、そして庶民が100万円に群がり、自分の夢を熱くプレゼンする滑稽な様子を見ることで寿命が延びる、という健康効果を狙ってのことだろう。

月に行ったのは多分純粋に行きたかったからで、本当にやりたいことに対しては、何億かかろうがランチパックと別れようが絶対に行くという強い意志を感じる。


つまり倹約をするなら、自分にとって何が大事で何が不要かを理解してからでないと、やみくもに節約し、そのストレスで長くは続かないということだ。


どうすれば、自分にとっての必要と不要がわかるか、そのヒントは「お小遣い制」にあるのかもしれない。


最近『定額制夫のこづかい万歳』という漫画を買って読んでいる。

タイトル通り、こづかい制の人たちがどうやってこづかいをやりくりしているかが描かれている。


非常に面白く、こづかい制がポジティブに描かれているのだが、一方で、飲んだカルピスの量で大の大人が大喧嘩したり、駅ナカの隅っこに立って缶酒を飲むことを「ステーションバー」と呼んだり、公園の水を満面の笑みで飲む様が熱量高めに描かれているため、人によっては「こづかい制になるぐらいなら一生独身で良い」と決意を新たにしてしまうようである。


だが「こづかい」としたのがこのマンガの画期的なところだ。

「こづかい」は「生活費」とは別、つまり生きる上では必要のない「無駄遣い費」なのである。


つまり『こづかい万歳』は、無駄遣いでハッピーを超えたガンギマリになっている人を描く、「無駄遣い肯定漫画」でもあるのだ。


それだけキマれるのも「こづかい」という制限があるからこそであり、我慢と熟考の末、自分にとって「必要な無駄遣い」が見えてくる、ということだ。


必要な無駄遣いがわかれば、逆に不要な無駄遣いはしなくなるのである。


よってこづかい制でない人も、不要な無駄遣いをなくすために期間限定でもこづかい制をやってみるのはありかもしれない。


ちなみに作者の方のおこづかいは「月2万1千円」である。


私は自分が生活費以外にいくら使っているのかさえわからないので、この額が可能なのか不可能なのかさえわからない。

しかし、ここに「ソシャゲのガチャ」という概念を入れると、一瞬で不可能を超えて「無謀」になってしまう。


2万も回して撤退するぐらいなら、最初から回さない方がましである。私にとって「ガチャを回す」は「出るまで回す」を意味する。途中撤退など士道不覚悟で切腹だと土方さんも言っている。


ガチャをここに入れると話が破綻するので除外して考えると、私は幸いほぼ外に出ないため、化粧品代や服代の必要があまりないし、外食もしないし当然外のレジャーにも興味がない。

それ以前に、女性の化粧品類を無駄遣いにカテゴライズするのもおかしい気がする。

日本の成人女性が外で化粧をするのはもはや義務に近い物があるので、これは生活費と言ってもいいのではないか。

ここで「女は男よりお金がかかっているところが多いんだから、デート代ぐらい払いなさいよね」と言ってしまうといともたやすく燃えるし、女の私が知らないだけで男性もキンタマに塗るクリーム代が高い、などの出費があるのかもしれない。


「服代」に関しても、下着や靴下は必需品ゆえに生活費として出すが、それ以上は「オシャレ費」なのでこづかいから出せ、という家もあるようだ。

その理屈でいうと、下着と靴下さえ履いていれば社会に出てもいいということになってしまわないか。

確かに、そのスタイルで逮捕されることはないかもしれないが、ある意味全裸よりも変態性が出てしまっている。

最低限のズボンやシャツも、生活必需品にカウントしても良いのではないだろうか。


そうなると私の主な無駄遣いはほぼ「お菓子」になってしまう。

だが、現在はコンビニで欲しいと思ったお菓子は何でも買ってしまっているため、菓子代だけで2万1千円を超えている可能性は十分にあるので、一度制限をかけ、自分に必要な菓子を熟考する必要があるのかもしれない。


そうなると、菓子棚の前で動かなくなる季節感のない服を着たノーメイクの中年女が爆誕してしまうが、「こづかいを有効利用しようとするあまり挙動不審になる大人」は、『こづかい万歳』の名物といっても良いので、私もその仲間に入れるなら本望だ。


むしろ、周りの目が気にならないぐらい金に対して真摯になれていると言える。

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