第14回 税理士さん、資料送ってなくてごめん。

文字数 2,361文字

稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!


前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!


お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の新たなる旅が始まるーー。

私は確定申告などの税務処理を税理士事務所に頼んでいるのだが、先日その事務所から封書が届いた。


恐る恐る開けて見ると「そろそろ資料を送ってください」という手紙だけが入っていた。


いくら税理士に任せているといっても、こちらが銀行明細や支払い通知などの資料を渡さなければ、税理士も何もできないのである。


たまに脱税の言い訳に「税理士の先生にお任せしていて知りませんでした」と言う者がいる。

税理士に袖の下的なものを渡して虚偽申告を出させたならわかるが、税理士が勝手に脱税をしたりはしないだろう。そんなことをしても税理士には何の得もない。


よってこの言い訳は嘘だと思っていたのだが、税理士に一切の資料を渡さない、真の意味での「お任せ」をした結果、そうなってしまった可能性はある。


クライアントが収支資料をよこさないのであれば、税理士は収支ゼロで申告するしかない。これでもし収入がそれなりにあれば、多額の申告漏れによる脱税ということになってしまうのだ。


この状態を「先生にお任せしてた」と言っているなら、その税理士はこんなクソクライアントの顧問になったのが運のつきである。

しかし、税理士も相手が資料を渡さないからと言ってそのまま申告するとは考えづらい。

収入が極端に少なかったり、ましてゼロだったら「ゼロということはないだろう、資料を早く送れ」と言うはずである。


しかし、「ゼロということがある」のが俺たちフリーランスのエキサイティングなところだ。

昔読んだ水木しげる先生のエピソードをまとめた本の中に、まだ漫画家として成功していないころ、あまりにも収入が少なかったため、税務署が所得隠しを疑い「こんな収入で暮らしていけるわけがない」とカチ込んできたという。

それに対し水木御大は「貴様らに俺の生活の何がわかる!」と言って追い返したそうだ。


水木先生でも暮らしていけるわけがない収入の時代があったのだから、我々にないはずがない。

よって税理士も本当にない可能性があるので「こんなに収入がないわけがない、早く資料を送れ」とは言いづらいのかもしれない。

そう言って相手に水木神が憑依し怒鳴られるのも嫌だろうが、「本当にないんです、すみません」と謝られるのも嫌だろう。

封書で「資料を出せ」と送ってきたのを見た時は、何故わざわざ手紙なのか、電話でいいじゃないかと思った。

確かに私は電話に出ないことを公言はしているが、それは担当相手だけであり、その他の電話には流石に出る。

だが、私も会社員時代、口頭で何かを伝えるのが嫌すぎて、同じ会社の人間ですら空席の時を狙い、「ふせん」で業務連絡をしようとしていた。


つまりこの事務所には死んでも電話はかけたくない、もしくは他の人間に私の電話番号を教えてくれとさえ聞けない、私と同レベルのコミュ症事務員がいるのではないか。


そう思ったのだが、前述の通り電話で「収入資料送れ」と言うと、瞬時に相手が水木化し「ないものは送れん」と返される可能性があるので封書にしたのかもしれない。

もしくは、国からの督促や最終通告も封書で来るものなので、「もう後がない」という意味だろうか。

そうだとしてもまだ封筒の色が「水色」なので、焦る時間ではないだろう。国からの督促状も段々封筒の色がビビットになっていき、最終的にNERVの封筒みたいになると聞いたことがある。


ともかく税理士事務所を困らせているのは確かなので、早急に資料を送らなければいけないし、収入がなかったとしてもないならないで伝えなければ、向こうもどうしたらいいかわからない。


ムーディ勝山さんは仕事がない時代、マネージャーに「スケジュールを送れ」と言ったら白紙がファックスされてきたらしいので、私もない時は封書で白紙を送ろうと思う。電話はコミュ症なのでかけたくない。


このようにフリーランスでも、確定申告を税理士に頼んでいる人は少なくないとは思う。

顧問料はかかるが、青色申告にしてもらえるし顧問料も経費になる。何より確定申告に時間を取られることもなければ間違いも少ないので、むしろ頼んだ方が得まである。


ということを私は確定申告が必要になってから10年ぐらい知らなかったため、その間ずっと手ずから時間をかけて合っているのかどうかもわからない白色申告を行なっていた。


これほど税金の高さに憤りながら、自らの無知で払う必要のない税金まで払っていたということだ。

だが、無知なのもあるが「自分でやればタダなのにわざわざ金を払ってやってもらうのは勿体無い」という意識もあったと思う。


このように無駄遣いをしないのは大事だが、目先の金ばかり気にするとトータルで金ばかりか時間まで損するということである。

特に、自分でやればタダだからと言ってプロに金を出し渋ると、しばらく変な前髪で生きることになったりと人生の質まで下がる。


結果的にいうと、やはり税務処理は税理士に頼んで正解だった。

ただ税理士にとっては、大して高くもない顧問料で、なかなか資料を出さない上に、何かあったとき「先生にお任せしてました」と言い出しかねないクソクライアントを掴んでしまったということである。


目先の金に囚われてはいけない。そして仕事も選ばなければいけない。

カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

Twitterはこちら:@rosai29

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