第67回/たとえ無料でも、がん検診には行かない侍たち

文字数 2,300文字

稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!


前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!


お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の旅がつづく。

先日、我が自治体でがん検診が無料で受けられると聞き、税金還元の好機と見て行ってきた。

 

検診内容は、大腸がん、肺がん、胃がん、子宮がん、乳がんであり、これを一気に行う。

言わばがんの五種競技でありガンアスロンと言っても過言ではない。集団検診ということもあり、半日はつぶれる覚悟で挑まなければならないだろう。

 

そう思っていたのだが、検診会場は閑散としており、一時間程度で全て終わってしまった。

 

後に知ったことだが、我が県はがん検診の受診率が軒並み低迷しており、乳がん・子宮がん検診に至っては全国ワースト1位だそうだ。

 

なぜ我が県にがんに対して自信ネキが集ってしまったのかは不明だが、日本は世界的に見てもがん検診受診率が芳しくないという。

 

何故日本人はがん死亡率が高いのに検診を受けに行こうとしないのか、その理由の堂々第一位は「いく時間がない」だそうだ。

 

確かに私が行ったがん集団検診も、ただでさえ受けに来ている奴が少ない上に高齢者率が異常であったが、それは日時が一分の狂いもない「平日」に設定されていたからだと思われる。

 

検診する側も土日は休みたいだろうが、それだと社会人の多くを占める土日休みの人が永遠に検診を受けられなくなってしまう。

土日やっているところを見つけて行く、有休をとってでも行く、という健康に対して相当意識高い系でなければつい行きそびれるというのが現状である。

 

しかし「時間を理由にやらない奴は時間があってもやらない説」は天動説より信憑性があるとも言われている。

 

実際、いつでも行けるはずのフリーランスや無職ほど何年も健康診断を受けていなかったりするものだ

 

よって「時間がない」とほぼ同着のがん検診を受けない理由の第二位は「健康状態に自信があり、必要性を感じない」である。

 

もはや「時間がない」などと言い訳じみたことすら言わない、正真正銘の「油断」で行かないと明言できる人間がこれだけいるのだから、やはり日本はまだまだ侍の国である。

 

確かに、病院は本来不調がある時に行くところなので、体に何の異変も感じていないのに診てもらえ言われるのは、私が「前立腺がん検査に行け」と言われるぐらい不必要かつ徒労に感じてしまうのかもしれない。

ただ、病気は体に異変を感じてからでは手遅れという場合もある。むしろ異変を感じる前に早期発見するために定期健診があるのではないか。

 

「健康だから大丈夫」も相当ダメな理由だが、その下には「がんであると分かるのが怖いから検診を受けたくない」というさらなる低みを目指すアンサーが控えている。

 

がんならがんで早期発見したいと願って毎年検診を受けている方にとっては、何を言っているのかさえ不明だろうが、正直この気持ちはわかる。

 

世の中には「病院に行くと病名がついてしまうから病院に行きたくない」という人間が一定数いるのだ。

 

まず自分が重篤な病気であるという事実を知るのが怖い、という気持ちがあり、これは誰でも理解できるだろう。

 

だが、そもそも健康診断に行きたがらない奴は面倒くさがりであり、病気だと診断されるのが面倒なのである。

問題を認識してしまうと「問題解決の必要性」が出てきて面倒くさいので、まず問題の発見をできるだけ遅らせたくなるのだ。

 

病気も病気だと判明したら治療の必要性が出てきてしまう、さらに重大な病気であれば、長期治療、時には入院、それに伴う手続きや関係者への通達など、壮大な面倒が始まってしまう。

 

この時点で面倒くさがりの人間は「死因:面倒」でこと切れるため、自らの病気を机の奥にあると思しきつづら折り状になった重要書類のように、どうしようもなくなるまで見てみぬふりしてしまうのだ。

 

正気ではないと思うだろうが「面倒」というのは性格だけではなく「疲れ」によっても発生するものである。

生まれつき、命より「面倒」というお気持ちを優先する、よく子宮から出て来るのを面倒くさがらなかったな、というタイプもいるのだが、心身ともに疲弊し気力も行動力もなくなっている人も、このような異常な判断をしてしまいがちなのだ。

 

よって、日本のがん検診率が低いのは、時間的な余裕がないだけではなく、日本人が総じて疲れ気味で気持ちに余裕がないせいもあるのではないかと思う。

 

ちなみに、私のがん検診の結果だが、胃だけが「良性の何かがあるが取り急ぎやることはない」という、どこにでもいる中年らしい結果となり、他に異常は認められなかった。

「異常なし」の文字を見た時の安心感は異常なので、不安があると言う人はやはり行った方がよいだろう。

 

だがおかげで二つも入っているがん保険は使用機会を逃すこととなった。

さすがに残念とは思っていないが、一つでも良いのではないか、という気はしてきた。

 

そして私は、がん保険二つに加え「医療保険」にも入っているので、次回はこの内容に触れたいと思う。


医療保険やがん保険は入っていれば安心だが、あまりにも入りすぎると病気にならなきゃ損みたいな気分になってしまうので、ほどほどをお勧めする。

カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

Twitterはこちら:@rosia29

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